ホテル王と偽りマリアージュ
私には『必死だ』って言ってたのに、一哉の仕事の状況がイマイチ見えない。


「それに……そうやって俺が日本を不在にしてるうちに、椿に手を出されたらそっちの方が困る」


表情を変えずに淡々と付け加えた一哉に、要さんがピクッと眉尻を上げた。


「要、本当は、そこが目的?」


一哉の鋭く細めた瞳から逃げるように、要さんは私に横目を流してくる。
いきなり向けられた視線に一瞬怯んで、一哉の腕にしがみ付きながら、私も唇を噛んでキッと目を向けた。
要さんが、今度は口の中だけで『へえ……』と呟く。


「俺が手を出して困るのは、偽装でも妻だから、世間体ってヤツか?」

「偽装じゃない。世間体とかどうでもいいし、そもそも椿は要が手を出せるような女じゃない」

「ふ~ん……椿さんもそれでいいんだ?」


一哉の返事を聞きながら、要さんが私に問い掛けてくる。


「一哉は結局、君のことをどう思ってるかははっきり言わないけど」


探るような要さんに、私は大きく頷いて見せた。


「それでも私が好きなのは一哉ですから」


私がまっすぐ向けた返事を耳にして、要さんは一瞬キュッと唇を噛んだ。
一層険しい表情を一哉にまっすぐ向ける。


「椿さんがまっすぐだから、それだけでお前は絆されてるのか」

「気に入らないな。要の言い方」

「でも、惚れてるとは言えないんだろ?」
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