ホテル王と偽りマリアージュ
口調だけは平然としたまま、要さんが畳み掛ける。
一哉は明らかに不愉快そうに眉を寄せた。
けれど、そんな反応でも要さんには十分だったようだ。


「俺は椿さんに惚れてるから。このままお前に、社長就任の為の道具扱いさせるのは気に入らない。ちゃんと結果出してお前から彼女を奪うから、その日を首を長くして待ってろ」


私が一哉のことを好きだと言っても、彼にはなんのダメージにもならなかったらしい。
それだけ自分にも仕事にも自信のある男だからだ、と私にもわかる。


「出来るもんならね」


一哉の軽い調子の返事に、要さんはわずかに不快そうに眉を寄せる。
でも、それ以上はなにも言わずに、『じゃあな』と一哉の肩をポンと叩いて、要さんは私たちの前から去って行った。


彼の背中を黙って見送りながら、私はそっと一哉の上着の袖を掴む。
それに気付いた彼が、表情を和らげて私を見下ろした。
『ん』と短く声を出しながら、私の指に指を絡めて繋いでくれる。


「一哉。もし……要さんが今年中に実績二倍増しを達成したら、どうなる……?」


どこまでも強気な彼の態度に、不安が湧き上がってきて心が揺れる。
一哉がニューヨークでどんな仕事をしているか見えないせいもあるのかもしれない。
私がこんな弱気になってちゃいけないのに……。


私は一哉をそっと見上げた。
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