ホテル王と偽りマリアージュ
基本的に仕事の拠点が日本の要さんと違って、一哉が彼に対抗するにはニューヨークで動く他ない。
なのに、浮かれる私に付き合ってデートなんかしてる場合じゃない。
『余裕だな』って要さんの言葉が、今更ながら胸に浸透してくる。


なのに一哉は、『大丈夫だよ』と私に微笑んだ。


「要に二倍増しなんて実績積めるわけがない。だってアイツ、今日本にいるからね」

「え?」

「本気で欲しいのはどっちかって思ってたけど……本当に本気なんだ」


最後はほとんど独り言のように呟き、一哉はちょっと難しい顔をして、要さんが出て行った方向に目を向ける。
それでもやっぱり余裕を漂わせる一哉に、私は不安が抑えられない。
彼は小さな溜め息をつきながら、再び私に視線を落とす。


「大丈夫。要の好きにさせたりしない。アイツが君を奪える日なんか、どんなに首を長くしたって来ないから」


いつもの柔らかい笑顔が彼に戻ってくる。
そこから強気に言われて、私の胸にも心強さが染み入ってくる。


「……うん」


よくわからないけど、一哉が笑ってくれるなら、きっと心配することはない。
大丈夫。自分にそう言い聞かせて、一瞬過った緊張を解しながら、一哉に微笑み掛けた。
繋いだ手に、キュッと力を込める。


「うん」


もう一度そう言いながら、私は一哉の肩に額をのせた。
< 162 / 233 >

この作品をシェア

pagetop