ホテル王と偽りマリアージュ
家に戻ってくると、一哉は先にリビングに入り、脱いだ上着をソファに放りながら私を振り返った。


「椿。俺、再来週からまたニューヨーク行ってくるから」


それを聞いて、私は即座に頭の中でカレンダーを思い描いた。
さっきまでの高揚していた気分が、一瞬にして沈んでいくのがわかる。


「そっか……」


思わずそう呟いてしまってから、慌てて両手で口を覆った。


初めてのデートに浮かれ過ぎて、彼を付き合わせてしまって申し訳ないと、ついさっき思ったばかりだ。
なのに私は、『やっぱりクリスマスは一緒に過ごせないんだ……』と、自分勝手にがっかりしてしまった。


「うまく行けば、年末には帰れる。お正月は二人でゆっくり過ごそう」


続いた一哉の言葉は、私へのフォローのような気がした。


お義父さんは、『年末休暇も』と言っていた。
今が大変な時なのに、こんなことでがっかりして気を遣わせてはいけない。
うん、と大きく頷いて、私は一哉に笑いかけた。


「わかった。頑張ってきて」

「椿、大丈夫?」


うまく笑ったつもりだったのにぎこちなくなってしまったのか、一哉は私の表情にわずかに眉を寄せた。
今度は何度も首を縦に振って見せる。
それを見て、一哉の方が表情を曇らせた。
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