ホテル王と偽りマリアージュ
「さっきの要、俺が日本にいるのが面白くないような言い方してたからね。もしかしたら、はったりなんじゃないかなってちょっと思った」

「はったり?」

「つまり、『ついで』なのは仕事の方で、本当は俺をニューヨークに張り付かせておいて、その間に君を……ってね」

「ま、まさか!」


一哉の考えには、さすがにギョッとして声を上げた。


なんで私なのかがまったくもって謎だけど、確かに私も要さんの本気は感じている。
でも、彼も皆藤家の人間なんだから、本当の目的が社長の座ではなく私の方だなんて信じられない。


「まさか、ならいいんだけどね……」


なのに、一哉の表情はやっぱり浮かないままだ。
私の頬を撫でる指に、ちょっと力が籠る。


「まあ、要が本気だろうがそうじゃなかろうが、俺の方はアメリカで業績を上げる準備は進めてる。年明けの幹部会で発表出来るよう、今はもうちょっとニューヨークで話を詰める必要がある。だから、どうしても行く必要があるんだけど……」


そう言って口を閉ざすと、一哉はちょっと困惑したように目を伏せた。


「君の気持ちにまだちゃんと答えを出してないのに、こんなの卑怯だってわかってる。正直自分でも、どうしてこんなにって思うんだけど……」


そう言って、どこか自嘲気味に表情を歪めた後、それを吹っ切るように私をまっすぐ見つめる。
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