ホテル王と偽りマリアージュ
そのまま、私と一哉はタイムズスクエアに繰り出した。
世界的に有名なニューヨークのカウントダウンイベント。
どこからこんなに集まったんだと思えるほど、広い広場はたくさんの人で揉みくちゃ状態だった。


寒さの厳しいニューヨークの冬の夜。
空気は凍てつくように冷たいのに、人々の熱気で、私の肩を抱いてくれる一哉の温もりで、寒さを全然感じない。


「Five、Four、Three、Two、One……」


その場に集まった人たちが、呼応し合ってカウントダウンするのと同時に、私の胸にもなんとも言えない高揚感が広がっていく。


「Zero!!」


絶叫のような最後のカウントダウンの声と同時に、時計の針が『12』を差して重なったその瞬間。
大きな歓声と共に、新年を祝う言葉があちこちから湧き起こった。
人々の熱気は最高潮に達する。


新しい年の幕開けを同じように喜び、祝い、そしてこの一年の幸せを祈る。
去年の今頃は想像もしなかった場所で新しい一年を迎えたことに感極まって、涙が零れそうになる私に、一哉がそっと身を屈めた。


「Happy New Year。椿」


彼の唇が紡ぐ発音のいい英語が、耳をくすぐる。
私の肩に回されていた手に、力が籠った。
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