ホテル王と偽りマリアージュ
私、水沢椿は、昨日まではどこにでもいる二十八歳の普通のOLだった。
大学卒業後、皆藤グループ経営の高級ホテル『新東京ロイヤルパレスホテル』に入社し、この六年一貫して経理部の所属。


ホテル勤務とは言っても宿泊部ではないから、華やかなロビーとか客室とかほとんど無縁。
地味なオフィス棟で完全週休二日制のお仕事。
普通の一般企業に勤めている感覚と、それほど変わりはない。


私は華やかな世界を支える裏方。
そういう仕事が合ってるし、実際私、見た目からして地味だ。


一度もパーマをかけたことのない、背中半分まであるストレートロングへア。
真っ黒ではなくちょっと色の抜けた焦げ茶色だから、辛うじて重苦しい日本人形にはならずに済む。


人前に出るわけじゃないから、メイクも結構手抜きの適当。
今日は昨日の疲れのせいか目が腫れぼったいし、コンタクトすら入れられず眼鏡を掛けてるせいで更に野暮ったい。


服装も一応流行を意識してるけど、地味な顔にオシャレな服は浮いてしまうから、だいたいいつもオーソドックスなオフィスカジュアル。
そう、この経理部にいる限りは、正直それでよかったのだ。


それが……。


「はあ……」
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