ホテル王と偽りマリアージュ
ネットニュースには、『大手高級ホテルチェーン社長ご子息』の写真も大きく掲載されている。
いつの写真かはわからない。
姿勢よく堂々と胸を張った長身の姿態に、黒いタキシードがとても様になっている。


今よりちょっと長い茶色いサラサラの髪。
瞳の色が少し薄く見えるのは、母方の祖父がアメリカ人で、クオーターだから。
世の女性の目をドビシッと惹き付ける本物の王子様みたいなルックスだけじゃなく、ホテル王の御曹司ともなれば、社会的な注目度も抜群だ。


ほんと、私、なんでこんな人がお相手だと間違えたり出来たんだろう――。
つい一ヵ月前の自分が、今となっては本当に不思議でならない。


ホテル王の御曹司なんて、そもそも問題外。
それでなくても、こんなイケメンをうちの親が私に薦めるはずがない。


あの時の私、相当舞い上がっていたとしか思えない。
そして冷静になれなかったせいで、今私の左手の薬指には分不相応な高価なマリッジリングが嵌められている。
『結婚』という名の『契約』の証――。


普通以下の地味なOLでしかない私が、皆藤グループ嫡男で次期社長の御曹司、皆藤一哉(かいとういちや)と、妙な契約を交わす羽目になった理由。


それは、つい一ヵ月前――。
このホテルのラウンジで起きた、私にとっては些細な、彼にとっては重大な間違いが発端だった。
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