ホテル王と偽りマリアージュ
大安吉日、爽やかな秋晴れに恵まれたその日。
私の職場である新東京ロイヤルパレスホテルのロビーは、結婚式の招待客で溢れ返っていた。


艶やかな着物だったり、華やかなパーティードレスだったり。
シックなスーツに白ネクタイだったり、紋付き袴だったり。
ホテルに到着した客のほとんどが三階の宴会場に向かう中、私はちょっとよそいきの黒いワンピースにハイヒールで、フロント前を駆け抜けた。


向かう先はロビーの奥にあるホテルラウンジ。
頭の中には、前日の夜電話で聞いたお母さんの言葉を再現していた。


『椿より二つ年上の三十歳で、電機メーカーにお勤めの方なの。真面目で優しくていいパパになりそうで、椿にぴったりだと思うのよ』


二十八になった今でも相変わらず男っ気がなく、将来の約束を交わした相手どころか、ここ数年は彼を紹介することもない娘の私に、お母さんが突然持ち掛けてきたのは、お見合い話だった。


『あんたの職場のホテルラウンジで、待ち合わせのお約束しておいたから、一度会ってらっしゃい』


お見合いと言っても堅苦しいものではなく、待ち合わせをセッティングされただけ。
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