ホテル王と偽りマリアージュ
「向こう発つ前にメール入れたけど、見てなかったか?」


そう言われて、昨夜早く眠ってからずっと、携帯を手にしていないことを思い出した。


「ごめん……全然気づかなかった」

「謝らなくていい。出迎えて欲しかったわけじゃない。けど……まさかキッチンでぶっ倒れてるの発見することになるとは、思ってなかった」


私のベッドの横で膝立ちしているのか、一哉はベッドに肘をつき、はあっと大きな息を吐きながら頭を抱え込んだ。


「マジ、死んでんじゃないかって思った」

「ちょっと、大袈裟……」


どうやら苦笑出来るくらいには熱も下がってるらしい。
額がなにやら冷たいのは、きっと一哉が冷えピタでも貼ってくれたおかげだろう。


何時だろう?と思いながら、カーテンの開いている窓を見遣った。
どうやらお昼というほど早い時間ではないみたい。
窓の外の空は、明らかに太陽がだいぶ傾いた後の色をしていた。


「一哉、いつ帰ってきたの?」


そっと彼の方に顔を動かしてみる。
一哉は上着こそ脱いでいたけど、ちゃんとノリの効いたワイシャツを着ていた。


「三時間くらい前。早く帰って来れてよかった。俺が帰って来なかったら、椿、いつまであのまま倒れてたか……」

「そんな。いくらなんでも途中で自分で気付くって」
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