ホテル王と偽りマリアージュ
そう言って更に苦笑を重ねてから、そっと肩を竦めた。


「一哉、ごめんね。出張から帰ってきた早々で、疲れてるよね。ずっと付いててくれたの?」


掛け布団を口元まで上げながら目線を上げて訊ねると、彼は黙って何度か首を縦に振った。
それに、私は『ごめん』と続ける。


「出迎えもご飯も作れなくて。私は大丈夫だから、一哉もちょっと休んで」


ぎこちない笑みを浮かべると、一哉は黙って首を振った。


「俺は大丈夫だから。……俺の方こそごめん。俺がいない間、君に負担かかったんだろ?」

「一哉のお母さんには、『仕事辞めれば連れ歩けるのに』って愚痴られちゃったけど……」

「マジ、ごめん。こうならないように、出る前に二人にはよく言っといたはずなんだけど」


一哉は眉間に皺を刻み、苦い口調でそう言った。
今度は私が首を横に振って見せた。


「一哉、気遣ってくれて、ありがとう。でもさ。これって『嫁』の務めだもんね。せめてもの『親孝行』出来たみたいで、私もよかったなって思ってるから」


私にも一哉にも、あの気のいいご両親を騙してるという負い目が、いつまでもついて回る。
さすがにそれを口に出しては言えなかったけど、一哉には私の気持ちが伝わったようだ。
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