ホテル王と偽りマリアージュ
それを見て、私は慌てて首を振って自分の質問を打ち消した。
けれど、一哉は瞳だけじゃなく表情をも厳しく歪める。


「椿、なんで要? 君の方こそ……要からなにか言われた?」


身を乗り出して覗き込んでくる一哉に、私は更に大きく首を振り続ける。


「な、なにも? ごめん、気にしないで」

「気になる。アイツ、君に……」


そう言って立ち上がり掛けながら、一哉はハッと息をのみ、再び膝立ちに戻った。
自分を抑えるように大きく声に出して息を吐き、そしてどこか困ったように微笑む。


「……ごめん。椿、まだ熱があるのに。ちゃんとゆっくり休んで」


そう言って、冷えピタが貼られたままの私の額にそっと手を当てた。
熱を測ってくれてるんだとわかっていても、その仕草にドキッとしてしまう。


「一応貼り替えておこうか」

「あ、まだ大丈夫だと思う。あの……ちゃんと寝るから、一哉も」

「いや」


休んで、と続けようとした声は、彼の短い声に遮られた。


「ここにいる。椿の寝顔、見てていい?」

「え?」

「見てたいんだ。君の寝顔」


繰り返し言われて、私の胸がドキンと跳ね上がる。


「なんで? や、やだよ! 恥ずかしい」
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