ホテル王と偽りマリアージュ
焦りながらそう言って拒み、私は布団を額まで持ち上げて顔を隠した。
布団の向こうから、クスッと笑う声が聞こえる。


「さっきまでも見てたんだけど」

「そりゃ、気付かなかったから……! 宣言されて見られて寝るのは恥ずかしい。そんなことされたら、眠れないから!」

「それでも、そばにいたい。そばにいる」


いつになく押しの強い一哉に戸惑い、私はそっと布団を下ろした。
目元を晒し、そっと一哉を見上げる。
宙で目が合うと、彼は穏やかに私に微笑みかけてきた。


「ほ、ほんとに見てるつもり?」

「うん。本気」


当然のように返される言葉に、私は溜め息をつきながら布団を更に首元まで下ろした。


「諦めた?」

「寝顔の写真とか撮ったら、許さないから。もうお嫁にいけなくなっちゃう」


そう言いながら唇を尖らせる私に、一哉は小さく苦笑した。


「……もう俺の嫁になってるのにね」


独り言にも聞こえる小さな声。
どういう意味で言ってるのかとても気になるのに、私はその先を問い質すことなく、ただ黙って一哉を見つめた。


沈黙が続く中、私と一哉の視線が宙で絡まり合う。
そして私を見つめ返す彼の綺麗な瞳が、一瞬揺らぎ――。
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