この世界の中で生きていく為に私がすること。
「こんにちは。山本先生。」
中に入ると壁一面に備え付けられた本棚に、ぎっしりと詰まった本。
その本がかもし出すカビ臭い香り。
少し薄暗い室内には似つかわしくない応接用のソファに教授が座っていた。
教授は私の正面に座っており、教授の対面。つまり、私に背を向けて座っているお客様。
後姿からしか分からないが…スーツを着ていて、男の人だということしか分からない。
「やあ、佐藤くん。こんにちは。」
やんわりと目を細めてほほ笑えみを浮かべ挨拶を返してくれたのが私のゼミの教授である山本先生。
60歳近い先生は、眼鏡をかけ、優しいおじいちゃんという感じだ。
私は先生と呼ぶが、美琴や希は「山じぃ」や「おじい」などと親しみを込めて呼んでいる。
孫の年に近い学生に山じいなどと呼ばれても、一切怒るようなことは無く、この年であだ名で呼ばれるのは嬉しいと喜ぶ位だ。
そんな心の広く、優しい先生だが研究のことになると前に述べたように変わり者なのだ。
まぁ、研究者というのは元々変わり者の人が多いのかもしれないが…。