だから今夜も眠れない
どのくらい時間が経っただろうか、
♫♪~
再び私の携帯が鳴った。
画面で母親の着信であることを確認して
のろのろと応答する。
「もしもし……」
「もしもし、さやか?今どこ」
「おじさんのアトリエ」
「そう、こっちは色々片つけとくから、
あんたは仕事ちゃんとやりなさい。
達(とおる)さんが紹介してくれた仕事なんだから、
しっかリやることが御供養になるから」
「うん、わかってる」
コチンとおでこを壁につけたら、たまたまそこにあったボタンを押してしまった。
ガシャガシャっと音を立てて窓をおおっていたカーテンが開く。
「わあっ」
視界いっぱいに開けたのはシティビルのガラス張りの壁面が煌々とこっちの部屋の中まで照らしていた。
まるで間接照明のように叔父さんの遺品である壁に描かれた絵や、
オブジェが浮き上がってやけに神秘的に見えた。
伯父さんはこの光景をいつも見ていたはず。
目の前に立ち上がっていく大きなビルを、変わっていく街を、
どんな気持ちで見ていたのだろうか。
私がよくここに入り浸っていた頃、伯父さんの口癖を思い出した。
『さやか、歴史の中の一人の人生なんて、ほらこのパン一個みたいなもんだよな。
ましてやその間に悩んだり悔やんだりする月日なんてそれを構成するほら、このくず程度のもんだ。
今日この日のこの時間なんて、小麦粉程度なもんだろ?』
あの頃対して気に止めることではなかったけど、
伯父さんも悩むことがあったんだろう。
今の私に振り替えれば、なんだか前向きになるための呪文の様に思えてくる。
「そうだよねとーるくん、私の悩んだり落ち込んだりしたこの数日は、
パンのくずみたいなもの。
小鳥にでも啄んで貰えば消えてなくなる。
洸と過ごした日々も、パンの耳にもならない程度のものよね」
もうあの部屋に戻る理由はない。
二人で探した部屋、二人で過ごし易いように配置した家具。
今はもうそれを見るのも苦痛なのだもの。
パンの耳なんて捨てて、新しい生活を始めよう!
♫♪~
再び私の携帯が鳴った。
画面で母親の着信であることを確認して
のろのろと応答する。
「もしもし……」
「もしもし、さやか?今どこ」
「おじさんのアトリエ」
「そう、こっちは色々片つけとくから、
あんたは仕事ちゃんとやりなさい。
達(とおる)さんが紹介してくれた仕事なんだから、
しっかリやることが御供養になるから」
「うん、わかってる」
コチンとおでこを壁につけたら、たまたまそこにあったボタンを押してしまった。
ガシャガシャっと音を立てて窓をおおっていたカーテンが開く。
「わあっ」
視界いっぱいに開けたのはシティビルのガラス張りの壁面が煌々とこっちの部屋の中まで照らしていた。
まるで間接照明のように叔父さんの遺品である壁に描かれた絵や、
オブジェが浮き上がってやけに神秘的に見えた。
伯父さんはこの光景をいつも見ていたはず。
目の前に立ち上がっていく大きなビルを、変わっていく街を、
どんな気持ちで見ていたのだろうか。
私がよくここに入り浸っていた頃、伯父さんの口癖を思い出した。
『さやか、歴史の中の一人の人生なんて、ほらこのパン一個みたいなもんだよな。
ましてやその間に悩んだり悔やんだりする月日なんてそれを構成するほら、このくず程度のもんだ。
今日この日のこの時間なんて、小麦粉程度なもんだろ?』
あの頃対して気に止めることではなかったけど、
伯父さんも悩むことがあったんだろう。
今の私に振り替えれば、なんだか前向きになるための呪文の様に思えてくる。
「そうだよねとーるくん、私の悩んだり落ち込んだりしたこの数日は、
パンのくずみたいなもの。
小鳥にでも啄んで貰えば消えてなくなる。
洸と過ごした日々も、パンの耳にもならない程度のものよね」
もうあの部屋に戻る理由はない。
二人で探した部屋、二人で過ごし易いように配置した家具。
今はもうそれを見るのも苦痛なのだもの。
パンの耳なんて捨てて、新しい生活を始めよう!