だから今夜も眠れない
身の回りのものは、宅配で送ったから明日には届く。

とりあえず必要なものはベッドと布団。

一日分の着替えが入った小さなボストンバッグを担いでぶつぶつ呟きながら、

駅の改札を抜ける。


今日からここが私の住む町になるんだ。


大きく伸び上がって空を見上げた。


視界を遮る高すぎるビル。


ビルができたお陰なのだろう、

回りに商業施設やカフェなどが入った雑居ビルもできて、

何年かの間に随分住みやすい街になったものだ。


賑やかな通りの脇を入ると、新居となる細長いビル。


今日は画廊も開いていて、

この前来たときより寂れた感が薄まっている。


「こんにちわ」

「やあ、久しぶりだね、さやちゃん。

オーナーずっと淋しがってたんだよ」


「伯父さんのことでは色々お世話になりました。


能勢さんはこのままここ続けて下さるんですね」


「まあね、することないし、さやちゃんのお父さんからもそうして欲しいって頼まれたし、

さやちゃんここに住むんでしょ?なら 続けていいよね?」



「もちろん。って言うか逆にアトリエに私が住んでいいかな?

って聞かなきゃって思ってたんだ。」


「え?それは持ち主の自由でしょ?」


「でも、アトリエ行くのにはお店のエレベーター使わないと、

階段5階の屋上なんて階段じゃ地獄だもん」


能勢さんはきょとんとしてから、頭をかきながら、

「参ったな……ホントに言ってなかったなんて」

と、つぶやいた。




意味がわからなくて、見つめると、

はあっと溜め息をついて、信じられないことを話し始めた。







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