だから今夜も眠れない
「どういうこと?」

さっき能勢さんに言われたことについて考える。


このビルの所有者は数年前から私になっていたのだと言う。


叔父さんはあれですごく私のことを溺愛していて、

いつも私になにか残したいと話していて、

数年前に手続きをしてくれていたはずだと言うのだ。


家賃収入だけでも結構な額になりはずだから、

詳しいことは叔父さんの財産を管理していると言う弁護士さんに会って話を聞く方がいいと、

能勢さんに進められた。


「そんなこと聞いてないよ」


言葉の少ない照れ屋の伯父さんのことだから、あり得ることだとは思う。


あの日、大好きだった叔父さんに裏切られたような気がして、

ここへ来ることを止めてしまったけれど、

叔父さんは再び私が来ることを待っていたのかな。


「伯父さん……とーるくん……」


なんだろ泣きたい気分だ。


ぱちりと照明をつけると、無機質だけど、雑然とした空間が広がっていた。


古くなったオイルの香りが、ノスタルジックな気分を作り出す。


パチンと電気をつけると、

以前と替わらない部屋の雰囲気に嬉しくなる。


「今日からここが私の城になるんだね」


大きく息を吸い込んだとき、窓の向こうの視線とバチりとあってしまい驚いた。


ここ5階の屋上にある小さなアトリエだよね誰かが興味を持って見ようとしなければ、

目に止まるものじゃないはずなのに。









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