だから今夜も眠れない
「すみません、まだ 何もなくて」

さっき駅の傍のコンビニで買った、

紙コップつきのインスタント珈琲をお出しした。

「かまわない」

王子様もとい山積さんは音もたてず美しく召し上がった。


「なんで、わざわざあんなショボい博物館にわざわざ忙しい中を行ったと思う?」


ショボい……


いくらなんでもとは思ったが、

大人対応は職場できっちり身に付いている。


笑顔で

「先日は我がしょぼい博物館にわざわざ忙しい中を御越しいただきありがとうございました」


しょぼくてすみませんねと一寸だけ棘を足してお礼をのべると、


「いやいや、そういうことではなくてだな……

すまない。失礼な言い方をした」



私は、にっこりと首をふると、

ほっとした表情になり続けた。


「あんたに会いにあそこに行ったんだよ」


わ、私に?

思いがけない一言に頭は真っ白になり、妄想に逃げ込んだ。



ーーーーーーー

黒塗りの車のウィンドーが静かに開いた。


窓から顔をのぞかせたのは、美しく若い青年だ。


視線の先にはうら若き女性。


小さな博物館の前で清掃作業に勤しんでいた。


『お声をかけられますか?』


『いや、いい。』


真摯に働くその姿を眺め目を細めた。


心が洗われるようだ。なんて素敵なひとなんだろう。



ーーーー



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