スーパーヤンキー!!
朝食を終えた後、俺は親父の部屋に行った。扉をノックして中に入ると、親父があぐらをかいて座っている。先程とはうって変わって真面目な表情だ。ほんと、切り替えが早いな。


親父は威厳のある雰囲気を醸し出しているが、まだ30代後半で、顔は大人っぽいと言うより、少し幼さがある。だけどものすごく美形だ。そんな親父に似たんだから悪い気はしない。


「おお、来たか。待ちくたびれたぞ」


顔に似合わない低い声。そこら辺の学生が聞いたら一目散に逃げていきそうだな。


俺は襖を閉めて親父の前にあぐらをかいて座る。そして親父同様、真面目な表情を作って親父の顔を睨むように見た。すると親父は、


「相変わらず俺に似やがって。お前がそんなんなっちまったのは"あの日"からだったか。まあ、無理もねぇか」


と言って、俺の表情が少し歪むのを見ながら隠すことなく笑う。


「チッ、うるせぇな。俺は昔っからこうなんだよ。生まれた時からてめぇに似てんだよ」


「確かに顔は似てたが、男見てぇな口調じゃなかったろうが。引きずりやがって。馬鹿野郎め」


「…いいからさっさと本題に入れよ。どうせ白蘭高校の事だろ?」


「ああ。お前には前言ったが、白蘭は学校というより、不良達の溜まり場みてぇなもんだ。しかも中学から高校までの奴らがかなりいるらしい。近所の方やその学校の教師達も毎日怯えているみてぇだ。それでな、その学校に行ってる浅葱っていう奴の父親が俺の知り合いで、詳しい事は知らねぇが、そいつらをどうにかしてやりてぇんだと。それで俺に頼み込んで来たんだが、さすがの俺もそんな事をしてる時間なんざ無くてな。お前に白蘭に行ってもらおうと思ったわけだ。だが無理強いはしたくねぇし、お前は女だ。男どもに寄ってたかって襲われでもしねぇか心配でな。それに、学校ともなると物騒なモン持っていくわけにもいかねぇだろ」


そこまで言うと、親父は俺の顔をじっと真面目な表情で見つめてくる。俺は少し笑ってから親父の顔を真っ直ぐ見つめ返す。


「おい親父。俺はこう見えてもここのヤクザ共には一度も負けた事がねぇし、裏の仕事も一人で出来るようになった。銃やら毒付きナイフやらを持った輩に比べれば可愛いもんじゃねぇか。俺はそういう奴らを今まで素手で相手してきてんだ。心配なんざ無用だよ。それに……」


俺は照れくさくて親父から顔を少し背け、小さな声で、だけど確実に聞こえるように、


「………俺は親父の事好きだし、尊敬してんだ。役に立てることなら何でもしてぇと思ってる。それに、親父の為なら命だって捨てる覚悟は出来てんだ」


「そうか。ありがとよ。だが、命は捨てるな。俺は家族が1人でも欠けるなんざお断りだからな。お前は俺と"あいつ"の大事な娘でもあるんだ。俺達みたいな仕事をしてる以上、命の重さはよく分かってんだろ」


そう言って親父は俺の頭を優しく撫でた。親父の手はでっかくて、いつも俺の全部を包んでくれる。俺は胸が張り裂けそうになるのを堪え、ただただその大きな手に全てを委ねるだけだった。


身支度を終え、玄関口に立っていると、親父や優真や他の沢山の家族達が見送りに来てくれた。


「今日から龍花ちゃんも高校生かぁ」


「龍花お姉ちゃん、頑張ってね!」


「気張るんだぞー。絶対不良達にキレてボコる事がねぇようになぁ」


いろんな言葉が聞こえてくる。こいつら見送る気ねぇな。不良をボコる前にお前らをボコってやる。


心の中で言い返していたが、桜さんが外で車を待機させてくれていたので、適当に流す。


「じゃあ、行ってくる。皆、見送りありがとな」


俺は家族全員を一通り見回し、今日一番の笑顔を向けてから、勢いよく家を飛び出した。
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