ADULTY CHILD
思わぬ拾い物
カラン、と乾いた音が、点々と円が秩序良く並ぶ闇に響く。
耳を凍らせる様な冷たい風が吹き荒ぶ冬のとある日、仕事帰りでクタクタの状態だった彼女は自分のマンションに何とか辿り着いた。

「ったく、ハゲ部長の奴絶対わざと私に残業押し付けたんだ、きっと…」

ブツブツと悪態をつきながら、まだ明かりが殆ど点いていない建物の中へ、少しでもこの冷気から逃れようと歩を速める。

「う…」

マンションの住人用にと区画されたゴミ置き場を通り過ぎた辺りで不意に、彼女の耳に怪しげな、声らしきものが届いた。

「だ、誰っ!?」

恐る恐る辺りを見渡すが、薄暗い街灯のせいで視界は限られている。

何これ…アメリカ辺りのホラー映画じゃないんだから、やめてよね…!

闇に怯えながら周囲を注意深く伺っていたが、深夜の住宅街に全く人影は無く、彼女の願いは空しく凍り付いて砕けた。

「…何だ、空耳か…」

「うう…」

ホッと胸を撫で下ろしたその刹那、再び闇夜に唸り声が響いた。

「誰なのっ!?
どこにいるのっ!?」

次第に闇に目が慣れて、うっすらと周囲の輪郭が見えてくる。

「うう…」

耳を澄ませると、どうやらその声はゴミ置き場の方から聞こえてくる様だった。

「誰かそこにいるの…?」

マンションの住人が深夜にゴミを出したのだろうか、積み重なれたゴミ袋の上に人が横たわっているのが見える。

「あの…大丈夫ですか?」

酔っ払いだろうか、ゴミ独特の異臭に混じってキツいアルコール臭が鼻についた。
大方酔っ払って足がもつれたかしたのだろう。
そして、倒れ込んだまま起き上がるのも億劫になってしまったに違いない。
夏場なら放置しても死にはしないだろうが、今は冬真っ只中。
しかも先程から視界の端に、小さく冷気を纏った影が掠めていく。
このままでは明朝、ここで凍死した遺体が発見されて大騒ぎになると、容易に予測出来た。




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