ADULTY CHILD
「じゃあ…見ず知らずの私を突然ママだなんて言い出したのは…?」

「さあ…そこまでは分かんねぇよ、俺医者じゃねぇし。
でも多分…」

「多分?」

「高熱のせいでだと思うけど、朝起きた時に真っ先にあんたの顔見たんだろ?
それって刷り込み現象なんじゃねぇの?」

刷り込み現象…生まれたての雛が初めて見た存在を親と認識するっていう?

鳥だけではなく全ての生物全般に起こりうる現象ではあると思うが、桜は雅也の言葉で脳に浮かんだ雛の姿を振り払った。

「まさか…
とにかく、困るんです。
お友達なんですよね?
親御さんとかも心配してると思うんで、早く連れてって下さい!」

「…うーん…
そう言われてもな…」

話の最中に、ソファーにもたれ掛かって夢の世界の住人になってしまったぎんを一瞥した彼が目を伏せた。

何かを言い辛そうに、口を開いては閉じる事を繰り返す。

「何ですか?
ハッキリ言って下さい」

焦れてそう告げると、雅也はやっと顔を上げた。

「…そいつ、あんた暫く預かっててくんねぇ?」

やっと重い口を開いたと思ったら、そこから発せられた言葉は桜の予想の範疇を越えていて、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

「はい?
いやでも、私この人とは無関係ですし…」

「あんたこんだけイイ部屋住んでんだから、稼ぎ良いんだろ?
男1人位養えるって。
俺は自分食ってく分でいっぱいいっぱいだからさ」

「そんな…
だったら親御さんに連絡取って貰うとか…」

「そいつの親、今日本にいねぇらしいよ」

「えっ?」

「親父さんの仕事で海外にいるって言ってた。
しょっちゅう転々としてるらしくて、今どこにいるかも知んないんだよね」

雅也の言葉に桜は愕然とした。

「連絡先とかも知らねぇし、どうしようもねぇじゃん?
って事で!」

そう言って立ち上がった雅也に慌てて追い縋る。
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