ADULTY CHILD
「あのっ、いつ、いつ帰ってくるんですか?」

「さあ?
俺達お互いに家庭の話とか殆どした事ねぇし。
ま、その内帰ってくんじゃねぇの?
銀も放っときゃその内治んだろ」

明らかに他人事の言い様にカチンときて、桜は背を向けた雅也に掴み掛かった。

「あ、貴方達友達なんでしょう?
何でそんな言い方するんですか!
心配じゃないんですか⁉︎
本当に記憶喪失だとしたら病院とか連れてかなきゃいけないしっ…」

「病院ならあんたが連れてけばいいだろ。
とにかくもう俺行かなきゃなんねぇから」

「ちょっ…、困ってる友達放ってどこ行くって言うんですか!」

「知った風な口きくんじゃねぇよ!
大体、俺らを仲良しこよしのオトモダチなんかと一緒にされちゃ困んだよ!」

言葉が気に入らなかったのか、語尾を荒げた雅也に桜はビクリと身体を震わせた。

「…こんな俺でも守ってやんなきゃなんねぇのがいんだよ…。
あんたみてぇに優雅な生活出来てりゃ銀の1人位…」

睨み付けていた視線を落とした雅也から、何かを背負って生きている様な…陰みたいなものが見えて、桜は何も言い返す事が出来なかった。

「…デカイ声出して悪かった」

「…いえ…私こそごめんなさい。
貴方の事何も知らないのに…」

どちらが悪いとか、そんな事では無いが、雅也が謝罪してきた事が桜の心をほんの少し解かしたのは確かだった。

「あんたって変わってんな。最初は愛想悪ぃ奴だなって思ったけど、俺嫌いじゃねぇよ、あんたみてぇな女」

「え…?」

ぶっきらぼうに言ったその言葉の意味が理解出来ずにいた桜に、雅也が口元だけで笑う。

「っと、マジで時間無ぇんだった!
あ、言っとくけど全部あんたに押し付ける気は無ぇから!
俺らで出来るだけフォローすっからさ」

「あ、ちょっと待っ…!」

「また来っから!
じゃあな!」

そう言い残して出て行った雅也の背中が、最初に受けた印象を覆して少しだけ広く見えた気がした。

「…雅也君…俺らで出来るだけフォローすっからさって…
俺らって…?」

閉められた玄関のドアを見送って、リビングに戻りながら桜は先程の雅也の言葉を反芻していた。
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