ADULTY CHILD
「しゅん兄ちゃん…」

リビングに戻ってからも寂しそうに俊が持ってきた車のオモチャを弄っているぎんに、桜は掛けられる言葉を見い出せずにいた。
図体は大きくても中身は子供なのだ。
寂しい時は寂しいと素直に表に出せるぎんが、切ない反面少し羨ましかった。

「…ぎん?」

「な〜に、ママ?」

「テレビでも観よっか。
今の時間なら多分面白いのやってるよ」

「うん、観るっ!」

パッと瞳を輝かせたぎんにホッとしつつも、桜はこれから先ぎんにどう接していいか分からなかった。
元々人付き合いは苦手で、会社の呑み会も殆どお断りしている位だ。
ましてや子供の相手なんて分かる訳が無い。

いっそ、ぎんが女の子だったら良かったのに…

テレビの子供番組に夢中になっているぎんの背中を見つめながら、桜はどうしようも無い現実を嘆いた。


「…マ…ママぁ…?」

肩を揺り起こされて、桜はいつの間にかソファーでうたた寝をしていた事に気付いた。
見ると、もう窓の外は薄暗く部屋の輪郭がぼやける程だった。

「あ…ごめんね、寝ちゃってた」

「ううん、ぎんも今起きたの!
そしたらお空真っ暗だからビックリしちゃった!」

「そうなの?
ならいいんだけど…
今電気点けるね」

立ち上がって部屋の明かりを点けると、一瞬眩しそうに目を細めたぎんが目の前でニッコリと笑った。

「ね、ママ!
ぎんお腹空いちゃった!」

「え?
あ、そっか…もうそんな時間なんだ…」

とはいえ、桜を助けてくれる俊は今ここにいない。

自分で作らなければ…

どうしたものかと頭を悩ませながらキッチンに向かった桜の目に、皿に盛られてラップがしてある料理が輝かしい光を放っていた。

「これ…」

「わ〜い、ご飯ご飯!」

それに気付いたぎんが嬉しそうに飛び跳ねる。
昼間、桜が料理音痴と気付いて俊が作り置きしておいてくれたらしい。
ハンバーグの余った材料で肉団子とサラダが並んでいた。

「ぎんねぇ、チーンって出来るよっ!」

驚きで立ち尽くしている桜の横からお皿を抱えて、電子レンジに運んだぎんが知った顔で操作をしている。
ともかく、助かった事には変わりない。

「ママ〜、食べよっ!」

「うん」

買い物袋を運んでくれたり、初めて見るうちの電子レンジを簡単に操作したり…
時折見せる、子供らしからぬ行動に首を傾げながらも、2人は俊に感謝しながら美味しい夕食の時間を過ごした。
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