ADULTY CHILD
「お腹いっぱい〜!
ねぇママ、お風呂入ろっ!」

料理を全て平らげたぎんが、何気無しに言った言葉に思わず目が眩む。

「えぇっ、お風呂⁉︎」

「何でそんなにビックリしてるの?
いつも一緒に入ってるでしょ?」

「いつも…?」

ぎんの頭の中で自分がママという存在になっているのは取り敢えず分かった。
しかし、ぎんにとっては毎日母親とお風呂に入る事が当たり前だとしても、桜にとってはぎんは昨日初めて出会った人物だ。

「早く早く〜!」

急かすぎんに背を押されて浴室に連れて行かれる。
昼間桜が買い物をしに出掛けている間に探検でもしたのだろうか。
もうどこが浴室なのか、どこにタオルが置いてあるかまでぎんは把握済みの様だった。

「ちょっ…
えっと、ほら、ぎんはもうこんなに大きいんだから、1人でお風呂に入れるでしょ?
私はやらなきゃいけない事があるから、ね?」

…なんて、別にやらなければいけない事なんて何も無い。
嘘でも何でもいいからこの場から逃れなくては
、そんな思いから出たでまかせは如何にも陳腐で、それでぎんが納得してくれるとは思えなかった。
それは分かっていたのだが…

「あとでぎんもお手伝いするから!
それにぎんまだ5つだよ
、1人でお風呂入れないもん!」

「い、5つ⁉︎」

素頓狂な声が出てしまった。
そんな桜を不審そうにぎんが見上げてくる。

「…ママ?
今日のママ変だよ、どうしたの?」

「今日も何も…」

どうしたらいいか考えあぐねている桜を他所に、ぎんは着ていた服を次々と脱いでいく。

「やっ、ちょっと待ってってば!」

目のやり場に困った桜はぎんに背を向けて顔を手で覆った。

「ほらぁ、ママも早く脱いでよ〜!」

身体を寄せられて耳元でせがむぎんに、桜は届かないと分かっていても心の中で助けを呼んだ。

俊君助けて!
ううん、雅也君でもいい、とにかく誰か助けて!

「もう、しょうがないママだな〜、じゃあぎんが脱がせてあげる!」

声にならない叫びは勿論どこにも届く筈は無く、ぎんが背後から桜の服に手を伸ばしてくる。

もう諦めるしか道は無さそうだった。
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