ADULTY CHILD
「じっ、自分で脱げるからっ!
ぎんは先に入っててっ!」
「は〜い、早く来てねっ!」
5歳の子供には猜疑心なんて微塵も無いのだろう。
無邪気に先に浴室へ入っていったぎんの広い背中が視界に入って、桜は自分の顔が一瞬で熱くなったのを自覚した。
背中だけでも桜にとっては刺激が強い。
勿論今までにこういう経験が全く無い訳ではないのだが、あまりにも久しいせいなのか、それとも相手がぎんだからなのか、今の桜には判断がつかなかった。
「ママ遅いよ〜、ぎんもうのぼせちゃう。
あれ、何でタオル巻いてるの?」
相手は5歳の子供なんだ、意識する方が馬鹿らしい。
そう何度も自分に言い聞かせていたせいで、ぎんを随分長いこと待たせてしまっていたらしい。
頬を紅潮させたぎんが浴槽の縁に顎を乗せて頬を膨らませた。
「ま、待たせちゃってごめんねっ!
もう上がる?」
出来る事ならさっさと上がって欲しいのだが、そんな桜の願いは泡の様に消えてしまう。
「…ん〜ん、頭洗いたい。
ママ洗って〜」
「きゃあっ!」
言うなり水音を立てて立ち上がったぎんの裸体が目に飛び込んできて、無意識に悲鳴を上げてしまった。
ぎんは5歳、ぎんは5歳…
何度も何度も頭の中でそうリフレインさせていても、目の前には程よく鍛えられた成人男性の裸がある訳で…平静でいられる訳が無い。
「ね〜ママ、頭洗ってってば!」
「うう…じゃあここ座ってっ」
とにかく無心でいよう。
何も考えるな、寧ろ無心の境地で!
素直に従ったぎんの髪を洗いながら、桜はブツブツと頭の中で呟いていた。
「ママ見て!
鬼さんだよ〜!」
鏡に映った、泡で髪を模った自分の姿にはしゃいでいるぎんが正直恨めしい。
それにしても、自分の姿を見ておかしいとは思わないのだろうか?
精神的には子供なのだから、自分の身体を見て違和感を感じる筈だ。
だが、本人を見る限り特に何とも思っていない様だった。
どうして私ばっかりがこんな思いをしなければいけないのか。
平凡に暮らしてきた私が何かしたとでもいうのか、突然舞い込んできた嵐に振り回されるばかりだ。
思わず、泡で遊んでいるぎんを睨みつけてしまっていた事に気付いて、桜は頭を振った。
ここに連れてきてしまったのは自分だ。
凍死なんてされたら後味が悪いという思いの裏にあった邪心は否定出来ない。
「ね〜ママ、ジャーして〜」
シャワーを指差したぎんに頷いて頭を流してやると、目をギュッと瞑ったぎんが嬉しそうに歓声を上げた。
その様子を眺めながら桜は、ふと自分の小さい頃を思い出していた。
あの頃は、よく父親とお風呂に入っていたものだ。
昼間仕事でいない父親との唯一も共有出来る時間。
オモチャを持ち込んで遊んだり、一緒に歌を歌ったり…
一番嬉しかったのは、あの大きな手で髪を洗って貰った時だった気がする。
風呂上がりに少し乱暴に髪を拭かれるのも、何故か心地良かった。
「ぷは〜!
ママ、ぎん頭綺麗きれいしたよ、偉い?」
「うん、偉いね」
「ママも洗ってあげる〜!」
今のぎんにとって、私は母親なのだ。
それ以上でもそれ以下でも無い。
「ありがと」
いつかぎんの本当の両親が帰ってくるまで、若しくはぎんが治るまでは、私がぎんの唯一の家族。
相変わらずお湯や石鹸で遊んでいるぎんを眺めながら、桜は彼にとことん付き合うと決意した。
ぎんは先に入っててっ!」
「は〜い、早く来てねっ!」
5歳の子供には猜疑心なんて微塵も無いのだろう。
無邪気に先に浴室へ入っていったぎんの広い背中が視界に入って、桜は自分の顔が一瞬で熱くなったのを自覚した。
背中だけでも桜にとっては刺激が強い。
勿論今までにこういう経験が全く無い訳ではないのだが、あまりにも久しいせいなのか、それとも相手がぎんだからなのか、今の桜には判断がつかなかった。
「ママ遅いよ〜、ぎんもうのぼせちゃう。
あれ、何でタオル巻いてるの?」
相手は5歳の子供なんだ、意識する方が馬鹿らしい。
そう何度も自分に言い聞かせていたせいで、ぎんを随分長いこと待たせてしまっていたらしい。
頬を紅潮させたぎんが浴槽の縁に顎を乗せて頬を膨らませた。
「ま、待たせちゃってごめんねっ!
もう上がる?」
出来る事ならさっさと上がって欲しいのだが、そんな桜の願いは泡の様に消えてしまう。
「…ん〜ん、頭洗いたい。
ママ洗って〜」
「きゃあっ!」
言うなり水音を立てて立ち上がったぎんの裸体が目に飛び込んできて、無意識に悲鳴を上げてしまった。
ぎんは5歳、ぎんは5歳…
何度も何度も頭の中でそうリフレインさせていても、目の前には程よく鍛えられた成人男性の裸がある訳で…平静でいられる訳が無い。
「ね〜ママ、頭洗ってってば!」
「うう…じゃあここ座ってっ」
とにかく無心でいよう。
何も考えるな、寧ろ無心の境地で!
素直に従ったぎんの髪を洗いながら、桜はブツブツと頭の中で呟いていた。
「ママ見て!
鬼さんだよ〜!」
鏡に映った、泡で髪を模った自分の姿にはしゃいでいるぎんが正直恨めしい。
それにしても、自分の姿を見ておかしいとは思わないのだろうか?
精神的には子供なのだから、自分の身体を見て違和感を感じる筈だ。
だが、本人を見る限り特に何とも思っていない様だった。
どうして私ばっかりがこんな思いをしなければいけないのか。
平凡に暮らしてきた私が何かしたとでもいうのか、突然舞い込んできた嵐に振り回されるばかりだ。
思わず、泡で遊んでいるぎんを睨みつけてしまっていた事に気付いて、桜は頭を振った。
ここに連れてきてしまったのは自分だ。
凍死なんてされたら後味が悪いという思いの裏にあった邪心は否定出来ない。
「ね〜ママ、ジャーして〜」
シャワーを指差したぎんに頷いて頭を流してやると、目をギュッと瞑ったぎんが嬉しそうに歓声を上げた。
その様子を眺めながら桜は、ふと自分の小さい頃を思い出していた。
あの頃は、よく父親とお風呂に入っていたものだ。
昼間仕事でいない父親との唯一も共有出来る時間。
オモチャを持ち込んで遊んだり、一緒に歌を歌ったり…
一番嬉しかったのは、あの大きな手で髪を洗って貰った時だった気がする。
風呂上がりに少し乱暴に髪を拭かれるのも、何故か心地良かった。
「ぷは〜!
ママ、ぎん頭綺麗きれいしたよ、偉い?」
「うん、偉いね」
「ママも洗ってあげる〜!」
今のぎんにとって、私は母親なのだ。
それ以上でもそれ以下でも無い。
「ありがと」
いつかぎんの本当の両親が帰ってくるまで、若しくはぎんが治るまでは、私がぎんの唯一の家族。
相変わらずお湯や石鹸で遊んでいるぎんを眺めながら、桜は彼にとことん付き合うと決意した。