ADULTY CHILD
母性
「お風呂気持ち良かったね」

若干のぼせ気味になりながら身体を拭いてやっていた桜は、もうぎんの身体に照れる事も目を逸らすのもやめた。
髪を乾かしてやっている間もずっとぎんはご機嫌だったが、しきりに重くなった瞼を擦っているのを桜は見逃さなかった。

「お風呂入ったし、もう寝ようか」

「うんっ…ママと寝る〜」

「え?あ、そっか…そうだよね。
うん、一緒に寝よ」

「ママぁ、早く〜」

一足早く寝室に向かったぎんを追いかけながら、桜は自分の中に何か、不思議な感情が湧き上がっているのを感じていた。


「ねぇママ、お歌歌って?」

狭いシングルベッドで身を寄せ合いながら、ぎんが重い瞼を擦りこすりお願いしてくる。
とはいえ、育児なんて全くの未経験の桜には子供が好む歌のレパートリーなど1つも持ち合わせていない。

いや、待てよ…?

「あ…じゃあ夕方テレビでやってたお歌にしよっか」

「うん!」

「ゆりかごのうたを…カナリアがうたうよ…
ねんねこねんねこ、ねんねこよ…」

「…すぅ…すぅ…」

余程限界が来ていたのか、桜がうろ覚えで歌い出してすぐにその瞳は閉じられ、僅かな間を置いて寝息が聞こえ始めた。
よく子供の寝顔は天使だと聞くが、ぎんの寝顔は本当に天使の様に安らかで…
今朝見た時の寝顔は朝日のベールを被って綺麗としか表現出来なかったが、今目の前にあるその顔はあどけない純真な子供そのものだった。

何故そう思うのだろう?
自分の心境の変化がそう見せているのか、それとも何か別の理由があるというのか…?

「すぅ…すぅ…」

暫くの間じっとその寝顔を眺めていた桜は、ぎんから発せられるα波に耐えながら静かにベッドから身を起こした。

「すぅ…すぅ…」

このまま眠ってくれそうなのを確認して寝室を出る。


「はぁ…何て1日だったんだろう…
あれ…?」

コーヒーを淹れてソファーに座ろうとした時、そこにぎんの携帯電話が置かれている事に気付いた。
よく見ると、背面ディスプレイに着信有りの文字が光っている。
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