ADULTY CHILD
「犬…あ、雅也君かぁ。
お風呂に入ってた時間に掛かってたみたい…」
桜は夜遅い事もあり通話ボタンを押すのを躊躇った。
しかし、何か重要な用件があるのかもしれない。
壁に掛けてある時計と携帯電話を交互に見比べていると、突然手に振動が響いた。
「もっ、もしもし⁉︎」
慌てて通話ボタンを押した桜の耳に雅也の声が聞こえてくる。
「あぁ、やっと繋がった。
銀は?」
「あ…彼ならもう寝ましたけど…」
「もう?
あ、そっか
子供はもう寝る時間だもんな。
さっき俊から報告受けてさ…
どう?
そっちの状況は」
雅也の声からは心の底から自分の友人を心配する思いが伝わってきて、それなのに自分の事を全く覚えていないなんてどんなに辛いだろうと桜まで切ない気分になる。
「…まぁ多分、今朝の様子じゃそう簡単に治ったりはしねぇだろうけど」
「…雅也君…」
「月曜に病院連れてくんだってな。
俺休み無しでバイトしてっから付き合えねぇんだ。
俊にも頼んでおいたけど、あんたも行くんだろ?」
「えぇまぁ…
私も仕事なんですけど、強引に決められちゃいました」
「あんたには悪いと思ってるけど、銀の事、マジで頼むよ。
他の奴らにも事情は話しといたから。
もしかしたらそっちに行くかもしんねぇからそん時は宜しくな」
「え…他の奴らって?」
「あれ、話してなかったっけ…
俺らバンド組んでんだ。
インディーズでまだ全然だけどな」
「バンド…?」
「そ、昨日はちっちぇえハコだったんだけど初の単独ライブでさ。
客の入りも良かったしメンバーで打ち上げやって…
そんで銀の奴が凄ぇピッチで呑んで泥酔してたからちゃんと帰れたか電話したんだよ。
今思えば俺があいつんちまで送ってやってれば、こんな事にはならなかったんじゃねぇかなってさ…」
雅也の話を聞いて、ふと桜は昨晩のぎんを思い出した。
鼻をつく酒の匂いがまだ残っているかの様だった。
「他の奴らはハイテンションだったのに、銀だけ何か様子がおかしかったんだ。
いつもあそこまで呑んだりしねぇ奴だったのにさ…
俺、あいつが今の状態になったのには頭を打っただけじゃねぇ何か、別の要因があると思ってんだよ。
医者に一応それ伝えといて」
「…分かりました、ちゃんと伝えておきますね
。
じゃあ…」
「あ、それともう1つ!」
電話を切ろうとした時、電話の向こうで雅也が声を大きくした。
「な、何ですか?」
「その敬語、やめてくんねぇ?
俺そういうの苦手なんだよね。
それから料理、練習しとけよな
。
じゃ」
「な…!
あ、ちょっ…!
…もうっ」
言いたい事だけ言って返事も聞かずに一方的に電話を切った雅也だが、桜は彼に対して昨晩とは違う思いを抱いていた。
それが何故なのか、そしてその思いが一体何なのか…
携帯電話を握り締めながら、桜は心の中に芽生えた感情を持て余していた。
冷めてしまったコーヒーに目を落とす。
今までの自分の人生は、刺激も挫折も無い平凡なものだった。
それが昨晩からまるで変わってしまったかの様に、今までに1度も関わりを持った事の無い世界に足を踏み入れてしまった。
それがこれから良い方向へ転ぶのか、はたまた悪い方向へと突き落とすものなのか…
ただ1つだけ言える事は、今の私は嫌いじゃない、それだけだった。
お風呂に入ってた時間に掛かってたみたい…」
桜は夜遅い事もあり通話ボタンを押すのを躊躇った。
しかし、何か重要な用件があるのかもしれない。
壁に掛けてある時計と携帯電話を交互に見比べていると、突然手に振動が響いた。
「もっ、もしもし⁉︎」
慌てて通話ボタンを押した桜の耳に雅也の声が聞こえてくる。
「あぁ、やっと繋がった。
銀は?」
「あ…彼ならもう寝ましたけど…」
「もう?
あ、そっか
子供はもう寝る時間だもんな。
さっき俊から報告受けてさ…
どう?
そっちの状況は」
雅也の声からは心の底から自分の友人を心配する思いが伝わってきて、それなのに自分の事を全く覚えていないなんてどんなに辛いだろうと桜まで切ない気分になる。
「…まぁ多分、今朝の様子じゃそう簡単に治ったりはしねぇだろうけど」
「…雅也君…」
「月曜に病院連れてくんだってな。
俺休み無しでバイトしてっから付き合えねぇんだ。
俊にも頼んでおいたけど、あんたも行くんだろ?」
「えぇまぁ…
私も仕事なんですけど、強引に決められちゃいました」
「あんたには悪いと思ってるけど、銀の事、マジで頼むよ。
他の奴らにも事情は話しといたから。
もしかしたらそっちに行くかもしんねぇからそん時は宜しくな」
「え…他の奴らって?」
「あれ、話してなかったっけ…
俺らバンド組んでんだ。
インディーズでまだ全然だけどな」
「バンド…?」
「そ、昨日はちっちぇえハコだったんだけど初の単独ライブでさ。
客の入りも良かったしメンバーで打ち上げやって…
そんで銀の奴が凄ぇピッチで呑んで泥酔してたからちゃんと帰れたか電話したんだよ。
今思えば俺があいつんちまで送ってやってれば、こんな事にはならなかったんじゃねぇかなってさ…」
雅也の話を聞いて、ふと桜は昨晩のぎんを思い出した。
鼻をつく酒の匂いがまだ残っているかの様だった。
「他の奴らはハイテンションだったのに、銀だけ何か様子がおかしかったんだ。
いつもあそこまで呑んだりしねぇ奴だったのにさ…
俺、あいつが今の状態になったのには頭を打っただけじゃねぇ何か、別の要因があると思ってんだよ。
医者に一応それ伝えといて」
「…分かりました、ちゃんと伝えておきますね
。
じゃあ…」
「あ、それともう1つ!」
電話を切ろうとした時、電話の向こうで雅也が声を大きくした。
「な、何ですか?」
「その敬語、やめてくんねぇ?
俺そういうの苦手なんだよね。
それから料理、練習しとけよな
。
じゃ」
「な…!
あ、ちょっ…!
…もうっ」
言いたい事だけ言って返事も聞かずに一方的に電話を切った雅也だが、桜は彼に対して昨晩とは違う思いを抱いていた。
それが何故なのか、そしてその思いが一体何なのか…
携帯電話を握り締めながら、桜は心の中に芽生えた感情を持て余していた。
冷めてしまったコーヒーに目を落とす。
今までの自分の人生は、刺激も挫折も無い平凡なものだった。
それが昨晩からまるで変わってしまったかの様に、今までに1度も関わりを持った事の無い世界に足を踏み入れてしまった。
それがこれから良い方向へ転ぶのか、はたまた悪い方向へと突き落とすものなのか…
ただ1つだけ言える事は、今の私は嫌いじゃない、それだけだった。