ADULTY CHILD

「ママ〜、出来た？」

「あともう少し…
よっと、出来た！
じゃあ食べよっか」

「わ〜い！
めっだまっやき♪
めっだまっやき♪」

お世辞にもとても美味しそうとは言えない目玉焼きが乗った皿を受け取ったぎんが、テーブルまで嬉しそうに運んでくれる。
何度も失敗してはやり直していた所為で、買い置きの卵を1パック使い切ってしまった。

まぁただ焼いただけの料理だ、不味いという事は無いだろう。

「いったっだきま〜す！」

昨夜、あれから何事も無く朝までぎんは眠り続けた。
大量の冷や汗をかきながらうなされているぎんの様子からは、雅也が言っていた様に本来の彼の身に何かが起きたのだと感じさせられた。
目覚めたぎんからその何かを感じ取れるのではないかと期待していた桜は、若干焦げ付いた目玉焼きを口に運んでいるぎんをそれは注意深く観察していたのだが…

「美味しいよっ！
ママも食べなよ！」

特別何かが変わった訳も無く、ぎんからは昨夜の事など影すらも感じ取る事は出来なかった。

「ママ？
食べないの？」

「え…？
あ、うん…食べるよ」

不安そうな顔のぎんに慌てて笑顔を作ると、目の前の目玉焼きに手を伸ばす。

「ねぇママ、今日は良いお天気だねっ！
ぎん遊びに行きたいな」

口の周りに玉子を付けながら窓に視線を移したぎんにつられて桜も空を眺めると、綺麗な青空が視界を覆った。

「本当、良い天気…」

「ねっ、お出掛けしようよ〜！」

「え…でも…」

ぎんに全くの自覚が無いとはいえ、外見は明らかに大人なぎんを連れて出掛けるなんてどう考えても有り得ない。
周囲に変な目で見られるのは確実、それはどうしようも無い。

「ぎんとお出掛けやなの…？」

渋る桜に顔を曇らせたぎんが、じわりと涙を滲ませている。

そんな捨て犬みたいな目で見て、一体私にどうしろと？

「そっ、そういう訳じゃないよっ！
お出掛けね、お出掛け…」

とは言うものの、一体この状態のぎんをどこに連れて行けるというのか。

「わ〜い、お出掛けお出掛け〜！」

立ち上がって大喜びしているぎんを前に前言撤回する訳もいかず途方に暮れていた時、不意に玄関からインターホンの音が聞こえてきた。