ADULTY CHILD
「はぁ…ゴホッ…」

額に大粒の汗が滲んでいる男にそっとタオルを押し付ける。
その感触に気付いてうっすら目を開けた男が、彼女の顔を見てビクリと身体を震わせた。

「っ!?」

「え、な、何!?」

突然身体を起こした男が眩暈を起こしたのか、その反動でソファーから身を激しく転がせる。

「ってぇ…」

「あっ、大丈夫、ですか…?」

「…ここは…?」

周囲を訝しげな表情で見回した男に安心させようと無理矢理笑顔を作ると、彼女は足元に落ちたスラックスを手に取った。

「ここは私の家です。
貴方、近くのゴミ置き場で倒れてたんですよ。凄い熱だったのでここまで運んだんですけど、大丈夫そうだったら家まで送りますから。
その前に、その格好のままだと風邪こじらせちゃいますよ。
良かったらこれに着替えて下さい」

「…」

服を差し出した彼女に無言のまま後ずさった男に彼女まで戸惑う。

「あの…?」

「…っ!」

一歩近付いた彼女に反発する磁石の様に後方へ跳び下がった男は、彼女をジッと見据えながら距離を置く様にジリジリと後退した。
何をそんなに怖がっているのか、男の瞳は狼狽
したまま揺らいでいる。

「…あのねぇ、私、あんたをここまで運んであげたのよ?
言わば命の恩人よ?
あんな所に転がったままだったらあんた、死んじゃってたかもしれないのよ?
それなのに何その目、何で私がそんな目で見られなきゃいけない訳!?」

全くこの仕打ち、一体私が何か悪い事でもしたというのか。

彼女の苛立ちは沸々と湧き上がっていく。
男は尚もにわかに後退し続けており、やっとハッキリと確認出来た男の顔は彼女好みではあったが、だからこそ、この男の態度が無性に腹立たしく感じた。

「…あんた、名前は!?」

苛立ちを隠せない問い掛けに、男が身体を強ばらせる。

「名前はって聞いてんの!」

あぁ、これだから他人と関わるのは嫌いなのだ。
ほんの少しの気紛れと欲が顔を出したせいでこんな目に遭ってしまった。
これ以上この男に関わるのはよそう。
そしてとっとと追い出してしまおう。
それからこの男がどうなろうと知ったこっちゃない。
見知らぬ男が肺炎になろうが一切関係無い。

「う…っ…」

「う?
何よ、ハッキリ言いなさいよっ!」

詰め寄った彼女が見た物は、彼女の予想を大きく覆す姿だった。

「うわぁん!
怖いよ〜っ!!」

「…は!?」

その場にしゃがみ込んでまるで小さな子供の様に泣き出した男の前で、彼女は1人途方に暮れる事しか出来なかった。
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