ADULTY CHILD
平凡なサラリーマン家庭に生まれ、一人娘としてはやや過保護な環境で育てられた。
大きな反抗期も無く、この24年、公立高校、短大と経て社会人となりこれといった出来事も無く平和に暮らしてきた。
きっとこれからも順風満帆とはいかないまでも、ごく平凡に人生を送るだろう…
そう、神崎桜は自己を過不足無く評価していた。

しかし…

「うわぁぁん!」

「ちょ、ちょっと…何なのもう!」

あまりの出来事に呆然と立ち尽くす事しか出来なかった桜は、もう長い事泣きじゃくっている男を困惑しながら見下ろしていた。

「うわぁぁぁん!」

一体何がどうなっているのか。

どう見たって男の年齢は22、3位。
普通に考えても人前で、しかもこんなに大声を上げて子供じみた泣き方をする訳が無い。

「うっ…ひっく…」

「あ、あのー…もういい加減泣き止んでよ…
これじゃあまるで私が泣かせたみたいじゃない」

「ううっ…うぇっ」

「あー、だ、だからっ、泣かないで、ね?」

やっと顔を上げてくれたももの再びしゃくり上げ始めた男に向かって、引き攣りつつも笑顔を作る。

「怖くないから、ねー?」

「…っ…っく…」

まだ怯えた表情の男が桜を見上げた時だった。

plulululu…plulululu…

突然、床に投げ出されていた男のコートから携帯電話の音が鳴り響いたのだ。

「う…うわぁぁぁん!」

やっと泣き止みそうだった男がその音に再びけたたましく泣き始めてしまった。

「タイミング悪い!
…いや、ちょっと待って…?」

タイミングはある意味良いのかもしれない。
男の名前も住所も分からない、しかも子供泣きしていて二進も三進もいかない今の状況に、掛かってきたこの電話は私にとっての救世主なのではないか?
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