女の子として見てください!
「ていうか飯尾君、伊浅さんと元々知り合いだったなら、伊浅さんが異動してきた時、気まずかったんじゃないの?」

なんとなく気になって、私がそう尋ねると、飯尾君は「うーん」とどっちつかずな返事をした後。


「姉ちゃんと伊浅さんが付き合ってた頃は、俺も伊浅さんと何度かプライベートで会ったことはあったけど、その頃、俺はまだ学生だったし。
あのふたりが別れたのって、五年くらい前なんですよ。だから、俺と伊浅さんが顔を合わすのも五年ぶりで。
期間開きすぎて、今さら気まずいとかはなかったですよ。お互い、『あ』みたいな感じで」

……別れたのは五年前。
ユキさんが警察官を辞めたのと、同じ時期だ。
退職と別れ、関係があるのかなぁ。


なんて、今考えてもしょうがないことをモヤモヤと考えていると。


「ていうか美桜さんって」

「うん?」

「そんなこと気にするってことは、やっぱ好きなんですよね? 伊浅さんのこと」

「ぶはぁっ‼︎」

飲みかけたコーヒーを盛大に吹き出してしまった。
口まわりに広がったそれを、手の甲で慌てて拭う。


「あーあー、美桜さんなにやってるんですか。そしてそういうのはハンカチで拭きましょうよ」

「持ってない」

そう答えると飯尾君が、「仕方ないなぁ」と言って、スーツのパンツのポケットから自分のハンカチを取り出し、私に近寄ると、私の口もとをそのハンカチで拭いてくれる。


「女らしい美桜さんは美桜さんらしくないとは言いましたけど、ハンカチくらいは持ち歩きましょうよ。女らしいとか以前に、普通に人としての身だしなみの一環でしょ」

「なにひとつ言い返せないけど、天然で鈍感な飯尾君がなんで私の恋心に気づいてるの……! 飯尾君にだけは気づかれないと思ってたのに……!」

「俺だってさすがに薄々気づいてましたよ。まあ、課長に言われて『やっぱそうなんだ』って感じでしたけど」

言い終えるのと同時に、飯尾君はコーヒーの染みがついてしまったハンカチをポケットにしまった。
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