女の子として見てください!
「じゃ、行くか」

そう言って、翔さんは私の手を握り、スマートに歩きだす。


(わ……)

恋人と、手をつないで歩く。

そんなごくごく普通のことに、私はずっと憧れていた。

一応、翔さんと付き合う以前にも恋人がいたことは何回かあったから(すべて短期間でフラれたけど。ちなみに最長一週間)、恋人と手をつないだこと自体は初めてじゃないけど、ありのままの私を受け入れてくれる恋人と、というのは初めてだったから。


思春期の中学生みたいにやたらドキドキしながら、私は翔さんに手をひかれ、歩いていく。


ショッピングセンターで買い物をしたり、近くの公園散策をしたり。


ふたりで過ごすまったりとした時間が、とても居心地良く、そして幸せで。



でも。


「美桜、疲れてない? 大丈夫?」

「え、あ、はい。全然大丈夫です! 楽しいです!」

「良かった。でも疲れたらすぐに言えよ。どこかで休もう」

そう言って翔さんは、私の頭をやさしく撫でてくれて。


やっぱり、今日の翔さんは私のことを女の子として見てくれている。

うれしい。うれしいしドキドキするの。


でも。

翔さんの言葉や行動からは、すごく余裕が感じられて。

それが嫌なわけじゃないの。むしろ余裕がある翔さん、カッコいいと思う。


だけど、それは同時に、自分といろいろ比べてしまう。

翔さんは、いろいろ経験があって、悪い意味じゃないけどそれなりに慣れているから、こういうことがスマートにできているんだと思う。
一方私は、経験がほぼないから。
どうしたら男性が喜ぶのかもわからないし、デートにおける行動の正解不正解もわからない。

そして、経験があり慣れている男性に、「実は処女です」なんてカミングアウト、できるだろうか。
いや、今日するって決めたんだけど。
決めたんだけど。

……ムリかもしれない!!
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