女の子として見てください!
でも、すると。

「……さっき」

と、翔さんが口を開く。


「さっき、課長たちとの会話がちょっと聞こえてきた。
女らしくなろうとしてるって? それができなくて落ち込んでたんだろ?
なんでそんなことをする? それが魅力的だと思っているのか?
俺は、そのままのお前がお前らしくていいと思うし、バーでもそう言ったよな? 俺がそう言ったら、お前も喜んでたじゃないか。
なのに、なんでまた悩み始める?」

クールで、そっけなくて、ちょっと冷たい感じもして。
でも、私のことを気にかけてくれているのもちゃんとわかった。
やっぱり、やさしい人なんだ。


私はありのままの私でいいって言ってくれたこと。もちろん覚えてる。だって、ああ言ってくれたから私は翔さんのことを好きになったんだもの。


だけど、だけど……。



「好きな人に好きになってもらえなきゃ、意味ないの……ッ!」

私は自分の気持ちを吐き出した。
そう。ありのままの私でいいって言ってくれたことは、すごくうれしかった。私だって、偽りの自分なんかじゃなくて、ありのままの自分でいたいと思う。
でも、翔さんが好きになってくれないんじゃ、ありのままの私なんて意味がない。
だから、自分らしさを捨ててでも、じぶんを着飾りたいの。


……すると、翔さんはコツコツと足音を響かせ、私に近づいてくる。
私の正面に立つと、彼は私に向かってスッと右手を伸ばしてきた。

えっ……なに?もしかして、触られる?

ひょっとして、キスーー……


そう思った、その時。

ーーパシン。

「いたっ」

私に向かって伸びてきた彼の手は、軽く私の頭を叩いた。


「声でかいんだよ」

す、すみません、ととりあえず謝る。

キス、だなんてとんでもない妄想だった。ありえなかった。
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