女の子として見てください!
私の数歩先で振り返った翔さんも、目を見開いて足を止めた。

周りのお客さんたちも、「えっ、ナイフ……?」、「なにかの撮影じゃないよね……?」、「ヤ、ヤバいんじゃない!?」とざわざわしている。


私今、知らない男に肩をつかまれ、ナイフで抑制されてる。いわゆる、人質……?


男は叫んだ。

「どいつもこいつも俺のことバカにしやがって! 仕事はクビにされるし、金はねぇし女もいねぇ! けどな、こんな俺だって、普通の奴にはできないことができるんだ! こうやって、大勢の人間の前で、女を人質にして注目されることだってできるんだ!」


男は、四十代くらいのちょっと小太りの体型で。

私は急に、この間課長から言われたことを思い出す。


『犯罪を呼ぶ女』


あの時は「なんて失礼なことを!」って思ったけど、今は、正直否定できない。


とはいえ。
私にナイフを突き立てているこの男、言ってることメチャクチャだし、せっかく良さげだったムードを壊されて腹が立つ。


周りの人たちはみんなこっちを見てパニックになっているけど、私はいたって落ち着いていた。ナイフを持っているとはいえ、男の声も手も震えていて、簡単に投げ飛ばせそうだったし。



そんなわけで、投げ飛ばすタイミングを計っていたのだけど、ちょっと待てよ、って思った。


翔さんが私のために動揺したり心配してくれている姿を、見たい!

そう思ってしまった。だって、私だって女の子だし!好きな人には心配されたいじゃない!?

普段クールな翔さんも、さすがにこの状況には冷静になんていられないと思う!
だって、気になる異性がナイフを目の前に人質にされてるんだからー!


と、思って翔さんに視線を向けると。
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