女の子として見てください!
翔さんは左手で右手を抑えながら、優しい笑顔で葉子ちゃんのことを見つめる。そして。

「君は、本当は松城のことを憎んでるわけじゃない。光太郎くんが変わっていくことが嫌なわけでもない。ただ、不安なだけなんだよな。自分の好きな人が、自分じゃない誰かを好きになることで、自分から離れていってしまうかもしれないことが」

翔さんの言葉に、葉子ちゃんがハッとしたかのように息をのむのがわかった。

でも、彼女はすぐに言い返す。

「あなたになにがわかるのっ!」

と。
ムリもない。翔さんと葉子ちゃんは、たった今初めて会ったばかりなのだし。


だけど翔さんは、いたって冷静な表情で、落ち着いて。彼女を諭すように言葉を続ける。

「わかるよ。俺も同じ気持ちだから」

「え……?」

「目の前に、俺が気になってる女の子と仲の良さそうな男が急に現れて。そいつ誰だよとか、俺よりお似合いな気がするとかいろいろ考えて、心中穏やかじゃない。
でも、それは俺がどうこう言うことじゃない。
選ぶのは、俺じゃなくてその女の子だから。
その子が決めたことを、その子の気持ちを、俺は大事にしていきたい。
不安になって、つい冷たい態度取っちゃったりもしたけどな」

翔さんがそう言うと、葉子ちゃんはボロボロと涙を流して、その場に膝から崩れ落ちた。


「わ、私も、光太郎に冷たい態度いっぱい取っちゃったよぉ……。もう、絶対に女の子としてなんて見てもらえない……」

「そんなことないよ。自分の気持ち、ちゃんと彼に伝えてごらん。俺もその子にちゃんと伝えてみるから」

「……うん」


すると、私たちの様子に気づいた人たちが、だんだんとこちらへ集まってきて。


「あなたケガしてるじゃないですか! 救急車呼びますか!?」

会社員風の男性が慌てた様子で翔さんにそう言うけど、彼は「大丈夫です」と断る。


だけど、翔さんの手の出血はおさまることがなく。

私は、飯尾君に急いで電話をして、ことの経緯を話した。


署の人たちにすぐに迎えに来てもらって、”秘密基地”で倒れている男ふたりのことはほかの署員に任せ、私と課長とそして葉子ちゃんは、飯尾君が運転してきたパトカーに乗り込み、いったん病院へ向かった。
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