女の子として見てください!
「課長、それじゃあお先に失礼します」

と、翔さんは後ろの席の課長に頭を下げる。


「あー、そうか今日早く帰るんだったな」

課長がそう答えたので、私はポッキーを喉の奥に押し込んでから、話に割り込む。


「なんですか? かけ……伊浅さん、今日なにかあるんですか?」

すると翔さんは、右手の平を軽く私に見せて。


「抜糸」

と答えた。

そうか、病院に行く日なんだ。


さっきまで、あんなに悩んでたけど。

そのケガは、私のせいで負ったものだし。

それに、ポッキーを食べてちょっと元気になったし……。


私、やっぱり“押してダメなら押してみろ”な性格を変えることはできないみたいで……。


「私も行きます!」

と、席を立って言ってしまった。


翔さんは、当然と言えば当然だけど、「え?」と眉間にシワを寄せて私を見る。

翔さんからだけじゃなく、飯尾君からも「美桜さん、仕事終わってないじゃないですか」と言われる。

うう〜……そりゃそうなんだけど〜……!
翔さんだって私とふたりになるの気まずいだろうけど〜……!
でもぉ〜……!

と、私が食い下がっていると。


「終わってないと言っても、明日に回せるものがほとんどだろ。いいよ、伊浅に付き添ってやれ」

と、課長が言ってくれる。


課長⁉︎なぜナイスアシスト⁉︎わからないけどありがとうございます‼︎


翔さんはやっぱり微妙な顔をしていたけど、課長にハッキリそう言われたからか、なにも言わずに廊下へ出ていく。
なにも言わないってことは、おそらくついていってもいいのだろう!

私は五秒で帰り支度を済ませ、翔さんの後を追いかけて廊下へ出た。






「仕事終わってないのに帰ってもいいなんて、課長らしくないこと言うんですね?」

美桜と翔が部署を出たあと、飯尾が次のポッキーを食べながら、藤澤にそう話す。


「ん? まあ、たまにはな。だってアイツ、伊浅のこと好きすぎるだろ。病院くらい付き添わせてやらないとな」

「あ、やっぱそうですよね? 俺、人の恋愛のこととか全然わかんないですけど、美桜さんのことはさすがにそうなんだろうなって思ってました」

と、美桜の恋愛について冷静に語る伊浅と藤澤だったが。


「まあ、子どもじゃあるましい大々的に応援したりはしないけどさ。上手くいくといいよな」

と、藤澤が言うと。


「ムリじゃないですか?」

飯尾は、表情や口調はいつもと変わらないものの、彼にしては冷たい言葉を放った。


しかし、飯尾がそう言った理由は、藤澤もわかっているようで、彼は飯尾に対してなにか否定したりはしなかった。


飯尾は新しいポッキーを口にくわえた状態で、それをポキンと折り。


「だって伊浅さんは、きっとまだ、”あの人”のことを忘れられていないから」
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