再会
ヴァポレットで本島に渡った私たちは、ドゥカーレ宮殿やサン・マルコ寺院のある、サンマルコ広場を目指していた。
そこは『世界で最も美しい広場』と言われ、ヴェネチィアを訪れる全ての人が立ち寄る観光名所だ。
「ねぇ、ジュン、あんたアキと同じ匂いがするんだけど、なんで?」
リリィに言われるまで、気付かなかった。
「あぁ、これ」
そう言って、ジュンは自分の着ているタンクトップをつまんでいる。
「俺さぁ、持ってきた石鹸、ドイツのどっかで置き忘れてん。ほんで、洗濯する時、アキに借りてんねん。これ、めっちゃいい匂いするやろ~」
ジュンは自分のでもないのに得意げだ。
そういえば、初めてアキに会った時にも感じた匂い。
柑橘系のハーブの香りだ。
香水か何かだと思ってたけど、石鹸の匂いだったんだ。
リリィも同じことを思ったようだ。
「なんだ、あんたがアキの香水でも勝手に使ってんのかと思ったわよ」
「俺、そんな手癖悪くないっちゅーねん」
「でも、これ、すごくいい匂いだね。イギリスから持ってきたの?」
私の問いに、アキは少し照れ臭そうに答えた。