君を唄う

「・・・・・・はぁ」

原田くんにわたしの歌を聞かれ、さらにバンドを組もうとまで言われてしまった。というか強制的に組まされたというか・・・。

いろいろなことが一気に起こって、もうなにがなんだかわからない。

今は、2時間目の音楽が終わり、その休み時間。1年4組の教室に戻り、ちかはさっきから携帯をいじっている。

「なんでため息ー?明音はさ、バンド組むの嫌なの?」

ちかは呑気な声で言う。

「嫌っていうかさ、突然言われても・・・ね?しかもバンドってどういうこと?原田くんさ、説明が足りないんだよな」

わたしは机に顔をうずめて言う。

「そもそもわたしそんな歌上手くないし、バンド組め、決定な、とか言われてわたしの返事も待たずにどっか行っちゃうし・・・ちょっと強引すぎない?」

「明音・・・」

ちかが心配そうな声で言う。

「勝手にバンド組まされるとかおかしいしわたしまだ組むとか言ってないからね!」

ちかの前だとどんどん愚痴がこぼれてくる。

「だいたいさー今まで原田くんとまともに話したことないんだけど!やっぱ自分勝手すぎでしょ!」

「明音っ!ちょっと‥」

「んーもうなに!?」

ちかがあせるようにわたしの肩を叩くから、ばっと顔をあげると



なんとそこには



「悪かったな、自分勝手で」




「は、原田くん!?」


なにこの少女漫画みたいなシチュエーションは!?よりによってなんで今ここにいるの!?

「今、なんでここにいるの?って思っただろ」

「げ、なんで」

「顔に出てるぞー」

原田くんが自分の顔をつんつん、と指差す。
ちかは隣で笑いを堪えている。
いや助けろ。さっき心配そうにわたしの名前を呼んだのはそういうことだったのか・・・。

「あの、さっきのは取り消してくれていいからね??」

おそるおそる言う。

「は?聞いちゃったもんは取り消せねーだろ」

呆れたように言われ、返す言葉がない。

「てか、そんな嫌ならやめてもいいよ、バンド」

「え」

いざそう言われると抵抗がある。
・・・なんで?バンド組みたいのかな、わたし・・・。

「わたしはただ、突然バンド組もうって言われて困惑しただけで、組まないとは言ってない・・・よ」

原田くんは口をとんがらせた。

「ふーん、じゃあどうすんの?」

「えっと・・・」

「組むの?組まないの??」

わたしは下を向いて黙った。


バンド、という言葉自体が、遠い存在のような気がしていた。でも、原田くんに誘われて、ちょっと近づけた気がした。

わたしでもバンドは組めるんだ?

バンドを組めば、LostHeartsに近づけるのかな?

少し考えて、顔を上げた。

「なんでわたしなの?」

原田くんが、一瞬戸惑ったように見えた。

「なんていうか・・・中山の声に、ピンときたんだ」

照れくさそうに言う。

「あー。俺のパートナー、こいつかも。って」



「・・・・・・」

沈黙が
流れる。



パートナーという言葉に、少し動揺した。




「わたしで、いいの?」

原田くんはじれったそうに、

「あー、もう、お前がいいんだよ!」

と言った。




……え?いま、なんて?



言葉の意味を考えた瞬間に、わたしの顔が赤くなるのが自分でも分かった。
やばい、顔が熱い‥赤くなってんのバレたら恥ずかしいじゃん‥。


わたしは下を向いて顔を隠しながら言う。

「わかった、く、組む!バンド組む!」

なんでこいつ、こんな恥ずかしいこと平気で言えるの?

「じゃ、決定な」

原田くんはにぱっと笑う。

「詳しいことはまた放課後なー」

「え、放課後!?」

「おう、俺昼休みは弁当食って寝るからよ。放課後どっか寄って話そうぜー」

「え、ちょ‥」

わたしの返事も待たずに原田くんは自分の席へ戻って行った。

「やっぱ強引だよなあ、あの人。ちか、放課後ついてきてくれる?」


「ごめんね、今日塾なんだぁー」

「えええええ!」

じゃあわたし原田くんと2人きりってこと!?
そんなの無理だよおおお。




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