君を唄う
少し憂鬱な気持ちで音楽室へ向かう。
音楽室は3階にあって私たちのクラスは4階にある。わたし達の高校は1年は4階、2年は3階、3年は2階、という風に学年が上がるごとに階が下がるシステムだ。
階段を下りていく途中に、女の子とすれ違った。

ふわっ……

すれ違ったときにほんのりラベンダーのようないい香りがして、思わず振り返った。
彼女も振り返り、目が、

…合った。

それは一瞬のできごと。
彼女はすぐにぷいっと前を向いて階段を上がっていった。
すごく綺麗な子だった…。でも、なんとなく見たことあるような。同い年かな?
そんなことを思いつつ音楽室に着くと、すでに原田くんがドアの前に立っていた。

「おっせえーよ」

「ご、ごめん」

ガラガラーとドアを開ける。ふと、さっきすれ違った女の子のことを思い出した。

「ねえ」

「ん?」

「さっきね、すごく可愛い女の子とすれ違ったんだけど、原田くんも会わなかった?」

「…さあ?誰?」

「んー、名前がわかんないんだよね。とにかく可愛かったんだけど」

「可愛いだけじゃ誰だかわかんねーな。てかそんなことより早くバンドの話進めようぜ」

やっぱりわかんないよね。原田くんはバンドのことに夢中みたいであんまり興味がなさそうだった。

「んじゃここ座って」

真ん中らへんの机をトントン、と人差し指で叩く。わたしは言われるがままにそこに座った。

「じゃあまずは〜」

んー、と顎に手を当てて言う。
男の子って、手、大きいな。

「メンバーが足りないんだよな。お前はボーカルじゃん?俺はギターやりたいんだ。あとはベースと…強いて言えばドラムがほしいなー。」

「あ、わたしはボーカルって決まってるのね」

「ったりめーだ。歌えるし顔も悪くないしな」

わたしは苦笑いした。顔も悪くないって…。なんか褒められてるのかよくわからない。

「でももっとうまくなってもらいたいな。俺が特別レッスンしてやるよ」

「お、おお」

「まあ覚悟しとけよ」

原田くんはにやりと笑った。なにをやるのやら。
ん?そういえば…

「バンド組んだらなんの歌うたうの?」

「あーそうだな、おまえLost Heartsすきなんだよな?それのカバー歌ってもいいし…」

うーん、と考えている。Lost Heartsを歌えるんだ…そう考えるとわくわくしてきた。じゃあもっと上手くならなきゃ。

「おれ、実は歌つくってんだ。いくつか。作詞作曲もやってみたいと思って」

「え、すご!見てみたい」

「…わかった!」

急に大きな声を出すからびっくりする。

「俺がおまえの歌を作るから、おまえは俺の歌を歌え」

原田くんは目をキラキラ輝かせて言った。

なんかちょっと、かっこよかったかも。

「うん、わかった」

「よーし!なんか燃えてきたわあ」




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