【てぃんかーべる】
「宗二朗さんっ
 るうを売ったって
 どういうことっ」

南 恭子が
怒りの剣幕で室内へ
入ってきた

「るう?」

「君島 沙也加よっ」

「きみじま…さやか?
 あー、『流雨(きさめ) るう』で
 デビューした娘か…?
 あれは
 橋本さんとこの、ほら、
 お前も前に会ったことあるだろ
 鳥山だったっけな
 あいつが欲しいっていっちゃってね
 売ったんだよ
 一千万。即現金払い
 全く割りに合わないよ
 ははは」

「ヤクザに売ったわけ?」

彼女は早口でいった

「ひとめぼれしてしまったらしい」

「橋本って
 興竜会の幹部じゃないっ
 あそこは暴力と薬でしのいでる組よ
 そんなとこに彼女を売るなんてっ……」

「昔はそうでもなかったが
 近ごろ
 たしかにやんちゃな組になったな
 薬物に溺れ
 果てはソープに
 落とされる道筋をたどるわけだ……
 だが…
 うちの事務所は
 興竜会に
 世話になってるわけだ
 断るわけにはいかない。
 わかるだろ……きょうこ」

「あの子は
 いい娘だったわ
 礼儀正しく
 とても純粋で
 性格もよかった」

「もういい
 君島 沙也加は忘れろ
 私だって後悔してるんだ
 億は稼げる価値の女だったからな」

恭子は
怒りの吐きどころを
探すように
厳めしい仕草で
室内を歩きまわった

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