【てぃんかーべる】
夜も更けてきた頃
南さんが
疲れた顔で
事務所に帰ってきた

「南さんっ」

「ねるちゃん…
 どうしたの
 明日も朝から撮影だから
 早く帰らなきゃ駄目じゃない」

「ひつ……
 くるみのところに
 行ってたんですよね」

わたしが唐突に
椎名ひつじこと
相澤胡桃の名前をいうと
驚きで南さんの眉が上がった

「くるみ
 手首切ったんですよね?
 容体はどうなんですか?
 元気でいるんですか?」

わたしの剣幕に
彼女は
目を細めてほほ笑んだ

「ふふ…
 ひつじは大丈夫よ
 心配してくれてありがとうね
 でもねるちゃんは
 自分のことだけ考えておきなさい
 他人の心配なんてしてると
 ライバルに足元すくわれちゃうわよ」

「でも……」

わたしが
なにか言おうとすると
彼女はわたしの肩を
両手でやさしく掴み
ゆっくり首を横に振った
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