【てぃんかーべる】
南さんに促され
事務所を出る

このまま
マンションに帰りたくない

夜中だけど、久しぶりに
父のいる実家に
足を向けた

玄関を開けると
懐かしい家の匂いがした
小さい頃から嗅ぎなれてる匂い

リビングにいくと
父がソファで
いびきをかいて寝ていた

「テレビ点けっぱなしじゃん」

わたしが
テレビを消すと

んぁ……っ

声を上げ
父が起きた

「……おっ
 つかさか…
 来てたのか」

父の声は
寝起きで
いがらっぽかった

「うん
 ていうか
 こんなとこで寝てると
 風邪引いちゃうよ」

「ん…
 あぁ…」

父は
大きなあくびをした
まだ完全に目覚めていない

「つかさ
 腹減ってないか」

軽く伸びをしながら
父が訊いてきた

「え?
 あ、えーと
 ちょっと減ってるかも」

「おし
 なんか作ってやる」

父は
お尻を掻きながら
のそのそと台所へむかった

そう……
…だよね

わたしの名前は
『水森 つかさ』
最近この名前で呼ばれていない

本名で呼ぶのは
父と
ごく一部の親しい友人のみ
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