【てぃんかーべる】
電話の向こうの彼は
口を開こうとしない

わずかに間があり

「どうした」

慣れた声が聞こえた
野田さんだ

「あ、野田さん?
 夜分にすいません
 あの……」
 
先にでた男の子が
なんだか気になったけど
今はくるみを優先させよう

「……椎名ひつじさんの
 住所教えてほしいんですけど」

「なぜだ」

わたしは
ひとつ間を置いた

「わたしたち友達なんです
 だから逢いたいんです
 なにか力になりたくて……」

沈黙の末
野田が
「そうか」と一言

その後
彼は理由を問いただすこともせず
くるみの住所を教えてくれた

礼を言い電話を切る

わたしは
掛け時計をみた
11時20分
夜遅いし明日に……

うぅん
今から行こう

「お父さんっ
 ごめんっ
 ちょっと急用できたから
 行かなくちゃ」

わたしは
早口で父に伝え
バッグを抱えて
急ぎ足でリビングを出た

父は
きょとんとしながら
わたしを見送っていた
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