【てぃんかーべる】
「あ、あの…
 えっと…
 久し…ぶり」

庵 ねるは
すっと立ち
もじもじしながらいった

無反応
無表情
そんなあたしをみて

「最近仕事休んでるって聞いて
 どうしてるのかなと思って……」

そういうと
彼女はうつむいた

「南 恭子に
 いわれて来たの?」

あたしが
そういうと
ねるは
「えっ」と顔をあげた

「くるみのこと
 南さんに訊いたんだけど
 心配しなくていいからって
 なにも教えてくれなかったの
 だから野田さんに電話して
 くるみの住所教えてもらって……
 迷惑だったなら
 ごめんなさい」

あれ
庵 ねるの本名って
なんだっけな

あたしは
彼女の言葉を
まるで耳にいれず
別のことを考えていた

「あ、荷物すごいね」

「へ?
 あぁ、コンビニで
 買い物してたんだ
 いまからこれ喰うの」

「えっ
 これ全部」

彼女は
びっくりしている

「うん
 余裕だよこんなの」

そのとき
エントランスに
マンションの入居者であろう
女が入ってきて
あたしたちを
訝しげにみながら
オートロックを解除し
エレベーターへと向かっていった

その女の
視線を気にしてか

「えっと……
 わたし帰るね
 夜遅くにきてごめんね」

ねるが切り出した

「部屋くる?
 散らかってるけど
 せっかく来たんだし」

「あ、え、えっと」

「きなよ」

そういって
あたしは
オートロックに鍵を
差し込んで解除した
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