【てぃんかーべる】
「腕……
 大丈夫?」

ねるが
あたしの両腕を見ていった

南の眼前で
左手首を包丁でイッてから
そのときの
解放を得たような
なんともいえない
感覚が忘れられず

不安

苦悩

辛労

ことあるごとに
刃物で手首を切った

無数の切疵や
ミミズ腫れの跡が
手首から前腕にまで広がる

深く切りすぎた
左手首は
中指、薬指、小指の
三指に障害が残り
今では
自由に動かすこともままならない

医者がいうには
リハビリをしないと
固まって動かなくなって
しまうらしい

でも
あたしにとって
そんなこと
どうでもよかった

リストカットは
あたしの心のよりどころ

一日中
傷跡を眺めて過ごす日もある

この切疵が増えれば
きつねのことが
忘れられるような
そんな気さえする

すこしぼんやりしてた
あたしは
ふと我に返り
からあげ弁当を喰い始めた

「午後ティーあげる」

そういって
ベッドの端に腰掛ける
ねるに向かって
ペットボトルを投げた

あっあっ
と声を上げ
慌てながらも
うまく午後の紅茶を
キャッチしたねる
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