【てぃんかーべる】
きつねのために買った服
両手に荷物を抱え
目抜き通りを歩く

「ごめんね
 荷物持たしちゃって」

つかさも両手に荷物

「うぅん
 だいじょうぶだよ
 これからどうする」

彼女が
あたしの顔をみながら
訊いてきた

「届けなきゃ」

「え?」

「これ」

あたしは荷物を
くいっとあげて示す

「いまから?」

わずかに驚くつかさ

「うん
 つかさも来てくれるでしょ」

「えっ
 わたしも行ってもいいの?」

彼女は戸惑いをみせた

「親友じゃん
 タクシーでいこっ」

あたしたちは
客待ちしてるタクシーに
乗り込んだ

わかってる

わかってるよ
このあとの展開

きつねん家にいく
  ↓
買った服をみせる
  ↓
きつね喜ぶ
  ↓
お前が忘れられないといわれる
  ↓
抱きしめられる
  ↓
結婚しようといわれる
  ↓
あたし素直にうなずく

やばい
完ぺきすぎ

タクシーの中で
洪水みたいに
笑みがこぼれる

ふと視界に
手首が目に入った

袖から見え隠れする
無数のリストカットの跡

アクセサリーを
つけてないことを後悔した

袖をぐっと伸ばし
傷跡を隠した

彼に逢える

そう考えただけで

ただそれだけで
体温が上がった
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