【てぃんかーべる】
身なりを整えた
あたしは
セックスに更ける
二人をよそに
ふらつきながら玄関へと向かう

玄関に
きつねのために買った
洋服の入ってる紙袋が目に入る

「ばいばい」

それに向かって
唇だけを動かした

タクシーに乗る金はない

近くの駅まで歩く

地下鉄に乗り込む
電車のドアに映った
無表情の自分

「くしゃくしゃじゃん」

とても人様に
みせられる顔じゃない

自宅に着くと
冷蔵庫からカルピスを取り出す

すこしだけ口をつける

耳がうずくほど
静かなリビング

大きく息を吐いた

えっと……

「包丁どこだっけ」

あたしが切らないように
南が包丁持って帰るから

色んなとこに
隠してるんだよね

枕の下のは見つかったし

テレビ裏も見つかった

クローゼットのやつが
まだあったよね

幽霊のような足取りで
クローゼットに向かった

Tシャツにくるまった包丁

カーペットに坐り
後頭部を壁に寄りかける

あたしは
先ほどの
だらしなく笑った
きつねの顔を思い出す

包丁を逆手に持ち
太股に突き刺した

身が引き締まるほどの痛みが走った
太股がぎゃあと悲鳴をあげた

それとは逆に
あたしの思考は冷静に続く

やめてといいつつ
淫乱な声をあげる
つかさが脳裏によみがえる

包丁を引き抜き
もう一度同じ個所に突き刺した

カーペットが
瞬く間に血に染まる

包丁を引き抜くと
くちゅ……
血が音をたてた

激痛で全身が震える
傷口からマグマが噴き出すかのように
血がはい出す

傷穴に包丁で蓋をするように
再度突き刺す

太股に
包丁を突き立て
柄を離した

じんじんと熱を発する
鋭い痛み
あまりにも痛いのか
新鮮魚がぴちぴち跳ねるかのように
全身が上下に揺れた

その自分自身の状況に
笑いが止まらなくなった
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