【てぃんかーべる】
「どうして
 あなたがここにいるの」

眉をしかめ
訝しげな表情で恭子が訊く

「新人の
 『小畑 由美』って娘が
 近々デビューするだろ
 彼女をここに住ませようと
 思ってだな
 それを伝えに来たんだよ」

私の説明に
恭子の顔色が険しくなる

「勝手なことしないでよっ
 ひつじの
 今の精神状態知ってる?
 ぼろぼろなのよ
 家族もいない
 仕事もできない
 そんなあの娘に
 住む場所まで奪うわけ」

私は
ふんっと鼻を鳴らす

「ボランティアじゃあるまいし
 仕事のできない奴に
 いつまでも住まいを
 無料提供してやる義理はない」

「……それで
 ひつじはなんていったの?
 あの娘は……
 私の自宅に引き取るわ」

「ひつじと話はしていない
 する必要がなくなった
 それにしても
 ずいぶん買い込んだじゃないか
 今日の晩飯は
 なにを作るんだ?
 私も食べていこうかな
 ははは」

私の言葉を介せず
恭子が
リビングから聞こえる
嗚咽に気づき
ひつじが泣いているのかと
訊いてきた

「いや
 庵 ねるだろ」

恭子の目が大きく開き

「どうしてねるがいるの」

驚きの声で訊いてくる

「運命ってやつじゃないのか
 運命には逆らえないからな
 ははは」

彼女は
私を無視し
急いでハイヒールを脱ぐと
早足でリビングに向かっていった

彼女をよそに
私は玄関を出る

視線を空にやると
ちょうど西日が雲にかかり
満開の桜のように
鮮やかなピンクを色づけていた
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