【てぃんかーべる】
白色灯
棚には雑に列んだ数々のファイル
机上のパソコンに電源はついていない

壁紙は黄茶色に染まり
稼動している空気清浄機は
まるで役に立っていない
ごみ箱と間違えるほど汚いテーブル
灰皿にはタバコが山積みとなっている

メルヘンな世界を彩る店内とは掛け離れた
中小企業のデスクワークのような室内だな

黒革のソファに座り
スーツの内ポケットから
タバコを取り出す

大きく息を吸い込み
煙を吐き出す

空中で斑に分解していく煙をみつめ
無意識に笑みを浮かべた

脳裏に甦る『椎名 ひつじ』の死に体
刃物で自らの首を裂き
蛙のように平伏して死んだバカな女

なにが遭ったのか知らないし
知ろうともおもわないが
だいたい予想はできる
自身の環境を悲観し絶望する
足掻きはい上がろうとするが
結果『つもり』で終わったのだろう

彼女は弱き者

弱者は死して当然

私は他人の死を眺めるのが
この上ない喜び

快感

爽快感が身体を突き抜ける

煙を吐き出し
我慢できなくなった私は
おもむろに股間に手を伸ばした
スラックスを下ろし
もはや小便する機能しかもたない
無能なるペニスを握りしめる

もう一度煙を吐く
タバコの尖端をペニスに近づける
そのまま亀頭部分に押しつけた

ぢゅ…っとわずかに焼音がした

「うぐぁ…」

熱さという快感に
篭った悲鳴をあげた

焼けた傷口から煙りがあがる
それを吸い込む
焦げた肉の薫りが鼻腔をくすぐった

『椎名 ひつじ』を思い出す

タバコの筒型に焼けた傷を
親指で擦った

じんじんと熱を帯びる亀頭
痛みが下半身を痺れさせる

火傷の痛みが増す度に
涙が溢れる

爪で火傷の部分を刺激する

「いてぇーっ」

あまりの痛さに下半身が上下した

「痛すぎるだろ畜生っ」

目の前にあった風俗雑誌を
壁に投げつけた

鋭い痛みに目を強く閉じ
股間を押さえ苦しむ

だが哀しいかな
これが現在の私の自慰行為だ
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