土用の午の日
土用の午の日
土用の時期の波は良い。
そう教えてくれたのは高校生の頃、人生で三番目に付き合った男だった。
三つ年上の大学生でバイトしていた地元のファミレスで知り合い、まかないを一緒に食べていた時にメールアドレスを聞かれたのが恋のはじめ。
「ライフ・イズ・ビューティフル」みたいに空から降ってくることもなければ、「タイタニック」みたいに投身自殺を思いいとどまらせたわけでもない、別になんてことないありきたりな、どこにでも転がっているような恋愛だ。
ちなみに初体験は中三の時に済ませているから、初めての男というわけでもない。
もう十二年も前の話、上の名前も思い出せないくらい印象の薄い男だけれど、よく覚えているのはサーフィンで鍛えた引き締まった体と日焼けした肌、海水と太陽でナチュラルに脱色された茶色い髪。
地元は港町でこそないが、車に乗れば海までは三十分と少しというサーファーにとっては恵まれた環境だ。小学校の頃はランドセルを背負いながら、中学校の頃は自転車を漕ぎながら、国道を走るサーフボードを頭にくくりつけた車を「あぁあの人たちも海に行くんだな」と思いつつ登下校していた。
「土用の間は潮の満ち引きの幅が普段より大きいから、良い波が来るんだよ。おばけ波って言うんだけど。だから俺らサーファーにとって、土用は見逃せない時期なわけ」
彼の口から聞くまで土用は夏にしかないと思っていたあたしは、春夏秋冬、すなわち一月四月七月十月、年に四回も土用があると知って驚いた。
「夏にしか海に入らないサーファーは本物じゃない」と豪語する男は一月後半の一年で一番寒い時期にすら海へ車を走らせると知って、もっと驚いた。
「それで? その人とは今も続いてるの?」
「まさか」
オイルをたっぷり塗り付け肩をマッサージしながら答える。
マッサージしてから手でしごいて抜くデリバリーエステの仕事は、一人ひとりのお客さんのタイプを見極めてマッサージ中に積極的に会話をしたりしなかったりするのも技のひとつだが、いくらリップサービスも本番もないとはいえ風俗なんだから会話の内容はとにかく無難なものがいい。
占いかあるいは、あたしの過去の恋愛経験か。
そう教えてくれたのは高校生の頃、人生で三番目に付き合った男だった。
三つ年上の大学生でバイトしていた地元のファミレスで知り合い、まかないを一緒に食べていた時にメールアドレスを聞かれたのが恋のはじめ。
「ライフ・イズ・ビューティフル」みたいに空から降ってくることもなければ、「タイタニック」みたいに投身自殺を思いいとどまらせたわけでもない、別になんてことないありきたりな、どこにでも転がっているような恋愛だ。
ちなみに初体験は中三の時に済ませているから、初めての男というわけでもない。
もう十二年も前の話、上の名前も思い出せないくらい印象の薄い男だけれど、よく覚えているのはサーフィンで鍛えた引き締まった体と日焼けした肌、海水と太陽でナチュラルに脱色された茶色い髪。
地元は港町でこそないが、車に乗れば海までは三十分と少しというサーファーにとっては恵まれた環境だ。小学校の頃はランドセルを背負いながら、中学校の頃は自転車を漕ぎながら、国道を走るサーフボードを頭にくくりつけた車を「あぁあの人たちも海に行くんだな」と思いつつ登下校していた。
「土用の間は潮の満ち引きの幅が普段より大きいから、良い波が来るんだよ。おばけ波って言うんだけど。だから俺らサーファーにとって、土用は見逃せない時期なわけ」
彼の口から聞くまで土用は夏にしかないと思っていたあたしは、春夏秋冬、すなわち一月四月七月十月、年に四回も土用があると知って驚いた。
「夏にしか海に入らないサーファーは本物じゃない」と豪語する男は一月後半の一年で一番寒い時期にすら海へ車を走らせると知って、もっと驚いた。
「それで? その人とは今も続いてるの?」
「まさか」
オイルをたっぷり塗り付け肩をマッサージしながら答える。
マッサージしてから手でしごいて抜くデリバリーエステの仕事は、一人ひとりのお客さんのタイプを見極めてマッサージ中に積極的に会話をしたりしなかったりするのも技のひとつだが、いくらリップサービスも本番もないとはいえ風俗なんだから会話の内容はとにかく無難なものがいい。
占いかあるいは、あたしの過去の恋愛経験か。